自由な挑戦、伝統進化 名尾手すき和紙7代目、谷口弦さん(28)

西日本新聞 佐賀版

 古民家風の店内には、色とりどりの和紙が並ぶ。茶色の和紙を手に取ると、ざらっとした黒い粒が見える。鼻を近づけると、ほのかに香る。「挽(ひ)いた後のコーヒー豆をすき込んでいるんです」

 谷口弦さんは佐賀市大和町にある名尾和紙の工房「名尾手すき和紙」の7代目。名尾和紙は約300年前から伝わるとされ、昭和初期には名尾地区内に100軒もの工房が並んだというが、今は谷口さんの工房のみ。県の重要無形文化財に指定されている。

 谷口さんは実家を出て大阪の大学に進学。卒業が近づき、就職活動をする中で、自分にしかできないことを考えた。頭に浮かんだのは家業の和紙作りだった。

 5年ほど前に実家に戻り、ゼロから和紙について学んだ。昔ながらの和紙作りに取り組む一方、「もっと和紙を身近に感じてほしい」という思いから工房のロゴや店の商品展示を一新した。

 「和紙の伝統を守るだけでなく、更新したい」。今年1月からは新たなブランド「KAMINARI PAPERWORKS(カミナリペーパーワークス)」を立ち上げた。名尾和紙の原料、梶(かじ)の木は線維が長く、強度があるため、ほかのものを一緒にすき込みやすいという特徴を生かす。コーヒーや茶葉を一緒にすき込み、今までにない和紙の制作を始めた。

 新ブランドのコンセプトは「還魂紙(かんこんし)」。江戸時代には使い古しの紙を集めて作る再生紙をそう呼んだという。その言葉に物語性を感じた。さまざまな素材をすき込んだり、その形を変えたりして、和紙を通じて新たな物語をつくり出したいという。

 谷口さんの実験は続く。今は「紙の石」を研究している。和紙作りの際に残った原料をおにぎりのように押し固め、乾燥させてつくるもの。見た目も手触りもまさに河原に落ちている小石。紙を固めたものは今まで世の中にないのではと考え、思いついたという。「大きなものを作れば椅子や茶室ができるかも」。そのアイデアは尽きない。

 こうした前衛的な和紙作りに目を付ける企業も現れた。美術専門誌「美術手帖(てちょう)」で知られる出版社だ。今年リニューアルされる東京の渋谷パルコに直営店をプロデュースするが、その店内には、細かくちぎった雑誌をすき込んだ名尾和紙を使ったカウンターが置かれる予定だ。

 30年ほど前までは和紙に色を付けたり、ドライフラワーなどを一緒にすき込んだりすることですら、業界の常識からは外れていた。新たなことに取り組んできたからこそ名尾手すき和紙の工房は今に残る。そうした工房の歴史が谷口さんの背中を押す。

 「唯一残る工房だからこそ、自由にチャレンジすることができる」。その和紙は今も進化を続ける。

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