電車に乗る際に、このごろ周囲によく目を配るようになった…

西日本新聞 オピニオン面

 電車に乗る際に、このごろ周囲によく目を配るようになった。座席の争奪戦ではない。リュックサックを背負った人々を極力避けたいのである

▼見ず知らずの他人の背で押し込まれる圧迫感は、実に耐え難い。よほどひどい時は押し返すが、そうされたことさえ当人は気が付かない。リュック自体より、周囲に不愉快な思いをさせていることに少しも思いが至らない無神経さが不愉快だ

▼鉄道会社も車内放送でマナーの順守を呼び掛けてはいる。熱意あふれる口ぶりとは言えず、ほぼ効果はない。車内を回って直接注意をしてはどうか。雨の季節。ぬれたリュックが間近に迫れば不快指数はぐんと上がる

▼「どんなに賢くっても、にんげん自分の背中を見ることはできないんだからね」。山本周五郎の小説にある。作中は人生訓だが、車中にぜひ掲げたい一文である

▼昔の暮らしの中には、さりげなく気遣い合うしぐさがあったように思う。混んだ往来でぶつからないように右肩、右腕を引いてすれ違う。しずくが掛からないよう互いの傘を傾けて歩く思いやりもあった。科学は長じても情は薄れ。今の車内は自分本位の戦国時代か

▼そんな無秩序地帯でも、ごくたまにリュックを前に抱え直す女性を見ると心が和む。大事な子どもを抱く妊婦のシルエットにも重なるからだろうか。殿方も同様に願いたい。さだめしタヌキの腹太鼓。奇態なれど愉快指数は上がる。

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