【図書館の未来】 関根 千佳さん 

西日本新聞 オピニオン面

関根千佳(せきね・ちか)さん=ユーディット会長同志社大客員教授 拡大

関根千佳(せきね・ちか)さん=ユーディット会長同志社大客員教授

◆地域の情報拠点へ磨け

 他の動物は持たず、人間だけが持っている物の一つが「本」だろう。本を書いたり、読んだり、「図書館」というところに集めたりする動物や植物はいない。だから図書館は、私たちが人間であることを再認識する場なのだ。

 初めて米国に住んだとき、隣人は「最初に行くべきところは図書館よ」と明言した。街の中の全ての情報は、地域の図書館に存在するから、まずは、そこで情報を集めることを勧めたのである。

 「図書館とは本を借りるところ」と思い込んでいた私には衝撃だった。確かにそこには全てが揃(そろ)っていた。図書館とは、情報データベースだったのだ。そして、そこはユニバーサルデザイン(UD)の世界だった。障害のある子どもや学生、若い人も高齢者も来ていた。拡大読書器や特殊なマウスなどの支援機器が完備され、そこで必要な情報にアクセスする方法を学ぶことも可能だった。

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 この夏、九州でも順次公開される映画「ニューヨーク公共図書館エクス・リブリス」は、解説のないドキュメンタリーだ。本や本棚はほとんど登場しない。

 「人力グーグル」ともいわれる恐るべき文献探索力の司書たちは、徹底して「情報」を質問者に届ける。市民は、ここへ来て、調べ、学び、真実に到達しようとする。素材は書籍だけでなく、古い新聞のマイクロフィルムやデジタル化された文書だったりする。図書館はPC(パソコン)の持ち込みを禁止したりしない。むしろ、市民にWi-Fiルーターを無料で貸し出し、情報リテラシーを上げることに尽力している。電子書籍も紙の書籍と平等に扱われ、貸し出されている。

 視覚障害者はPCに接続された点字ピンディスプレーを使って、点字の読み方から学べる。情報は、紙からデジタルになることで、点字や音声や、拡大文字になり、多くの人に届く。図書館で開催されるイベントも、ユニバーサルなものだ。聴覚障害者により深く意味を伝える手話表現方法の講習会や、子どもの識字率を上げる教室もある。

 それらのすべてが、基本的に「民間」の手で進められているというのは、驚きである。確かにニューヨーク市は多額の資金援助をしている。だが、公立ではない。多くの財団から寄付を募って運営しているのだ。だから「公共」なのである。行政の仕事も引き受けている。なぜなら、図書館は「情報を市民に渡す場所」だからだ。

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 日本でも、あかし市民図書館(兵庫県明石市)や、「みんなの森 ぎふメディアコスモス」(岐阜市)のように、市民に情報を広く伝えることを第一と考える図書館が増えてきている。九州では、都城市立図書館や武雄市図書館が、地域の活性化に役立っている。だが、未(いま)だに、古い感覚の公立図書館も散見される。PCが持ち込めても、Wi-Fiはなく、リポートなどを書きにくい雰囲気のところがあるのが、残念でならない。電子図書館も海外に比べるとかなり少ない。デジタルと戦うのではなく、市民のためにどう共存するべきかを考えてほしい。

 ICTに取り組んできたが、Iがインフォメーション(情報)であることを、今更のように思う。ICTで伝えたかったことは「情報」。必要としていたのも、真実に迫るための「情報」だった。

 日本でも、図書館が、単に本を貸すだけではなく、本を含むはるかに大きな情報の花束を、市民に届けるためのものになってほしいと思う。
 図書館とは、私たちが人間である限り、その未来にとって、必要なサービス産業なのだから。

 【略歴】1957年、長崎県佐世保市生まれ。九州大法学部卒。81年、日本IBMに入社。ユニバーサルデザインの重要性を感じ、98年に(株)ユーディット設立。同社社長、同志社大教授など歴任。著書に「ユニバーサルデザインのちから」など。

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