消えゆく?犬食文化 亀浦家畜市場来月閉鎖へ 夏の滋養食虐待批判高まる

西日本新聞 国際面

 韓国で犬の肉を食べる文化への風当たりが強まっている。犬肉を煮込んだスープ「補身湯(ポシンタン)」は暑気払いの滋養食として親しまれてきたが、近年は犬食イコール動物虐待との世論が高まる。7月に全面廃業を控える韓国三大犬市場の一つ、釜山市北区の亀浦(クポ)家畜市場を歩いた。 (釜山・前田絵)

 釜山市役所から地下鉄を乗り継いで約30分。徳川(トクチョン)駅近くにある亀浦市場は、南へ伸びるアーケードに野菜や鮮魚などの店が並び、活気にあふれていた。しばらく歩くと人通りがまばらになり、薄暗く寂れた雰囲気が漂う。19店舗で構成する家畜市場だ。「犬肉」「犬焼酎」の看板を掲げる店先のおりに犬がいた。

 一つのおりに1~10匹の雑種犬が入れられているが、ほえもせず上目遣いでこちらを見る。隣の冷蔵ケースでは皮を剥いだ切り身の犬肉を販売。1キロ当たり1万8千ウォン(約1600円)程度で買える。カメラを向けた瞬間、十数メートル先から「撮るな」と女性の鋭い声が飛んできた。複数の店に取材を申し込んだが「忙しい」と口を閉ざす。

 市場関係者が取材に神経をとがらせるのには理由がある。2017年8月、市場から逃げた犬を引きずって連れ戻す様子がテレビで報道されると「動物虐待」と非難を浴び、市場閉鎖を求めるデモが続いた。

 北区によると、家畜市場は朝鮮戦争休戦後の1950年代にでき始め、80年代までは60店舗が営業していた。北区と釜山市は動物虐待の汚名を返上しようと、市場関係者と交渉を続け、今年5月に閉鎖の暫定合意にこぎ着けた。7月1日から生きている犬や鶏などの陳列や屠殺を中止し、11日に全面廃業するという。

 北区は19店舗に月額313万ウォン(約29万円)の生活安定資金を提供するなど業種転換を支援。199億ウォン(約18億円)を投入し、市場跡地に店舗併設の駐車場やペット愛好家向けの広場、ドッグカフェなどを整備する計画だ。完全廃業が実現すれば全国初だという。

 この問題に市議時代から取り組んでいた北区の鄭明姫(チョンミョンヒ)区長は「動物虐待の温床から、全国を代表するペットに優しい街に生まれ変われるよう努力したい」と話す。一方、亀浦市場家畜支会のキム・ヨンジュ支会総務は「殺生への負担感と国民意識の変化から廃業を決めた。新しい生活基盤の準備が心配で心が重い」と苦しい胸の内を明かす。

 市場閉鎖を市民はどう受け止めているのか。以前は犬肉を食べていたという会社社長の男性(55)は「閉鎖は賛成。犬がかわいそうだから今は食べない」。犬食文化を支持する元会社員の女性(48)は「食用犬とペット犬は別。美容に良いと聞くし、誰かに誘われたら食べに行く」と語る。犬を飼う元教師の女性(60)は「私は食べないけど、牛や豚はよくて、なぜ犬が駄目なのか、という疑問は感じる」と話す。

 動物愛護団体「動物自由連帯」釜山事務所の沈〓燮(シムインソプ)チーム長は「犬市場閉鎖の先行事例になる。歴史的な意義は大きい」と評価する一方、「食べる人がいる限り、犬肉の売買は続く。市場閉鎖で見えづらくなる犬肉の流通を監視するのがわれわれの仕事だ」と表情を引き締めた。

■ペット人気 背景に

 日本で土用丑(うし)の日にウナギを食べるように、韓国では夏に3回ある「伏日(ポンナル)」に暑気払いとして犬肉や参鶏湯(サムゲタン)を食べる風習がある。動物愛護団体によると、年間約200万匹の犬が食べられているという。犬肉食の是非を尋ねた昨年の世論調査では、「反対」は46%に上り「賛成」の18.5%を上回った。

 背景にはペットブームがある。犬などのペットを飼う人は人口の約2割に当たる1000万人を超えた。「伴侶動物」と呼び、家族としてかわいがる。韓国紙の京郷新聞によると、犬を家畜から除外する畜産法改正案など犬食を禁止する関連3法案が国会通過を待つ。昨年9月には韓国最高裁が、食用犬を感電死させる行為を無罪とした下級審判決を破棄し、差し戻した。

 犬肉を実際に食べてみるため亀浦家畜市場近くの食堂に入った。8000ウォン(約730円)の補身湯を注文すると、ぐつぐつと煮立った石鍋が出てきた。湯気からくせのある独特の香りが漂う。ショウガなどとともに肉を食べると柔らかな食感に驚く。筋張って固いというイメージは覆されたが、おりに入った悲しげな犬の表情がちらつき、完食はできなかった。

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