容疑者逃走事件 「市民の安全」最優先せよ

西日本新聞 オピニオン面

 検察は市民の命や安全よりも、己のメンツを優先していないか-。そんな批判を免れない大きな失態である。

 窃盗罪などで実刑確定後、刑務所収容に抵抗して逃走した男(43)が、公務執行妨害容疑で横浜地検に逮捕された。事件発生からほぼ4日間逃げていた。

 男は逃走時に包丁を所持していた。事件に巻き込まれた人はいなかったとみられるが、事件はさまざまな疑問や課題を突き付けた。特筆すべきは、地検はなぜ初動段階で逃走の事実を公表しなかったのか、である。

 今月19日、検察事務官5人と神奈川県警の刑事2人が、この男の身柄を収容するため自宅を訪ねた。男は包丁を振り回すなどして車で逃走した。

 地検が自治体や報道機関に事態を公表したのは、逃走から約3時間半後である。警察による緊急配備が敷かれたのは4時間半以上たってからだった。「有事即応」に程遠い展開だ。

 情報開示が早ければ早いほど目撃情報は多く寄せられる。男はコンビニや理髪店に立ち寄っていた。市民に危害が及ぶリスクは高まっていたわけだ。

 地検の検事正が容疑者逮捕の後、謝罪の記者会見を開いた。公表が遅れた経緯などは、今後の検証に支障がある、として説明しなかった。詳細の公表の是非はともかく、この期に及んでのだんまり姿勢は、さらなる不信を招いたのではないか。

 無謬(むびゅう)性に固執して失敗を認めたがらない。何度もそう指摘されてきた最高検を頂点とする検察組織の体質が、改めて問われよう。

 第二の疑問は、そもそも男は実刑確定前、保釈が認められるべき対象だったのか、である。保釈の可否は証拠隠滅や逃亡の恐れの程度などで判断される。男は覚せい剤取締法違反など複数の罪にも問われていた。

 最高裁によると、2010年に18%だった保釈率は昨年32%台に上った。裁判員制度導入(09年)を機に、被告と弁護人の打ち合わせなど審理の充実を図る狙いが背景にあるという。

 保釈は人権上などの観点から法が認める制度である。冤罪(えんざい)の温床になりがちだと批判が根強い「人質司法」を改革するためにも、尊重されて当然だ。ただ、今回のように保釈中に別の容疑で逮捕されるケースは少なくない。裁判所による十分な吟味と適切な判断が求められる。

 先週大阪で起きた拳銃強奪事件で、府警が府民向けメールの第一報を出したのは、発生約1時間半後だった。その後「不審な男」の画像を公開し、翌日の容疑者逮捕につながった。両事件から教訓を引き出し、市民生活の平穏につなげたい。

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