私のフェミニズム<下> 松尾亜紀子さん 闘うのは男性でなく性差別 「連帯の場」の出版社目指す

西日本新聞

 -フェミニズム専門の出版社を立ち上げ、5月には雑誌「エトセトラ」を創刊した。なぜフェミニズムに特化するのか。

 「大学時代に(社会学者の)上野千鶴子さんらの著書を読んでフェミニズムに興味を持った。関連の本を意識的に作り始めたのは、河出書房新社に勤めていた8~9年前。編集者として書き手と対話する中で関心が育っていった」

 「会員制交流サイト(SNS)が発達し、本の感想など読者が見えやすくなった時期でもあった。独立した方がより読者に熱量が届く。社名の『エトセトラブックス』の由来は『etc.(等々)』。切り捨てられがちな、女性のいろんな声を届けたいとの願いを込めた」

 -創刊号の特集は「コンビニからエロ本がなくなる日」。大手コンビニが8月末までに成人向け雑誌の販売をやめることについて、漫画家の田房永子さんの責任編集で識者のエッセーや一般投稿を掲載した。万人に開かれた場所に、暴力的な表現を含む、性を商品化した雑誌が置かれていることの深刻さを訴えている。

 「雑誌は年2回発行、責任編集は毎回変える方針だ。誰かがこれをやりたいというテーマはとても個人的だが、そういうものこそ一番強い。コンビニに成人誌があったこともいつかは忘れられてしまう。切り捨てられがちな、まさに『エトセトラ』なテーマだ」

 -成人誌の作り手や存在意義を訴える人など反対意見も掲載しているが、賛否の意見が争っていない印象だ。

 「いろんな意見を載せることも田房さんの発案で、結果的になぜ成人誌があったのか知ることができた。争っていないと感じるのは、本という形だからだろう。SNS、特にツイッターの短い文章では感情が先立ち対話は難しい。今回、一般投稿は上限千字で募った。記録が残る前提で長く書かれた文章は、なぜその人がそう思っているかが分かり、心の中で対話できるのだと思う」

 -「争い」といえば、フェミニズムは男性と闘うイメージがあった。しかし英女優エマ・ワトソンさんによる2014年の国連スピーチや、フェミニズムの定義を「男性支配的な文明と社会を批判し組み替えようとする思想・運動」から「性差別からの解放と両性の平等とを目指す思想・運動」とした広辞苑の18年改訂など、変化もみえる。

 「男性を嫌悪するイメージは根強く、私自身も誤解を恐れて本の帯にフェミニズムと書くのをためらった時期があった。でも、闘う相手は男性ではなく性差別だ。エマ・ワトソンさんも『フェミニズムとは男も女も個としての権利を得ることだ』と言っている」

 -フェミニズム運動の変化をどうみるか。

 「世界的に流れが変わったのは17年のトランプ米大統領の就任以降。性差別的な発言に抗議するデモ行進が起こり、性暴力を告発する『#MeToo』も米国から日本に広がった。もともと怒りや違和感を抱えていた女性たちがSNSでつながり、自分も怒っていいんだという共感が広がった。SNSは抑圧された声を出す場、連帯の場として大事な役目を持っている」

 「日本で潮目が変わったのは、入試で女子や浪人生を不利にしていた東京医科大の不正問題だろう。学問の平等という最後の砦(とりで)が崩れ、日本のひどさが目に見えた」

 -いずれも性差別が分かりやすく露呈した事例。それだけ、通常は見えにくい問題でもある。

 「コンビニのエロ本問題も、今回の特集で初めて自分の問題として捉えたという反響が多かった。女性の側も性差別に慣らされているからだと思う。ハイヒールの強制をなくす運動『#KuToo』も、性差別の構造を指摘する事例。いちいち『それは性差別です』と言っていくしかない」

 -声を上げることをためらう女性は多い。
 「私は幼い頃から男性に意見すると『偉そう』と非難された。女性が自身の権利を主張するだけで違和感を抱く人は、性差別構造に組み込まれていて、脅威に感じるからでないか」

 「声を上げるには、自分が独りではない、声を上げれば何かが変わるというふうにしなくちゃいけない。出版社を立ち上げたのは、そうした連帯の場をつくりたかったからだ。フェミニズムとは、性差別をなくし、個人個人がよりよく生きるためのもの。微力だが、そのための本を作っていきたい」
 (川口安子)

 ▼まつお・あきこ エトセトラブックス代表取締役。1977年、長崎県佐世保市生まれ。編集プロダクションを経て2003~18年に河出書房新社に編集者として勤務し、同年12月に独立。東京在住。

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