【余生をどこで】(1)住まい多様化、数や質十分か

西日本新聞 くらし面

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高齢者の住まい選択の目安

高齢者向け施設・住宅への住み替え相談に乗る高宮暁伸さん=12日、福岡市博多区

 「身近な場所には入れなかったですが…。運良く、合う施設が見つかった方だと思います」。福岡県福津市に住む女性(49)は、うなずきながら振り返る。

 3年前に父が亡くなった後、北九州市で1人暮らしだった母(89)が脳梗塞になったのは昨年8月。治療のため約1週間、総合病院に入院した後、別の病院の療養病床に移った。その日にすぐ、ソーシャルワーカーから退院後の「住まい方」を考えるよう助言された。国は医療費抑制のため早期退院を促しており、入院は3カ月しか認められない例が多い。

安さ、近さ最優先

 手渡された冊子にはサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や有料老人ホームのリストがずらり。「でも、どこが良いか悪いのか違いが全く分からなくて…」。夫(49)と相談して自宅に引き取ろうかとも考えたがアパートの2階。まひが残れば階段の移動は厳しい。

 候補として考えたのは、比較的料金が安いとされる特別養護老人ホーム(特養)。でも「母が支払える範囲内の金額」で「自宅の近所か便利の良い地域」には「空きがない」と聞かされた。申し込んで待機しても、いつ入れるか分からない。住まいが見つからない場合、介護老人保健施設(老健)に移ってリハビリする方法はあるものの原則3カ月~半年程度しか居られない。

 関係者に探してもらったところ、自宅から車で1時間以上はかかる2カ所の特養が空いていた。見学に行くと、最初に訪れた施設で、何をどこまでケアしてくれるのか丁寧な説明があった。「フィーリングが合った」ため、入居を決めた。

 食事は手作り。話し相手もできたためか、母は前より顔色も元気も良くなった。「でも、どうしても住み慣れた地域で暮らしたいとこだわる人や、さまざまな事情で遠くに引っ越すのが難しい人はいますよね」。望む場所で住まいを選ぶのが難しい現実-。80歳になる独居の母がいる夫には、釈然としない思いも残る。

軽い人ほど狭き門

 「とにかく早め早めに動かないと、簡単には見つかりません」。そう指摘するのは、福岡市内で高齢者の住まいの相談・仲介に携わるNPO法人高齢者のこれからを支える会代表理事の高宮暁伸さん(46)。「特に行く所がないのは、比較的要介護度の低い人たち」。老親のけがや病気を機に、離れて暮らす子が慌てて探すケースが多く、ケアマネジャーからの照会依頼が増えているという。

 特養は原則、要介護3以上が対象。支援の度合いが低い場合はサ高住か住宅型の有料老人ホームが選択肢となるが「もろもろの費用は月額約15万円」。特に交通の便が良い所は高額となり、親の年金だけでは足りない。「生活保護受給者などが入れる低額の物件はさらに少ないです」

 入居がかなったとしても、サービスの質が期待と異なり、運営事業所側とトラブルになる例も。「なるべく3カ所は見学して、立地やスタッフの印象、運営体制などを確認して検討するよう、勧めています」

 同会は相談者がチェックポイントを記入できる「見学ノート」を準備しているほか、今夏には旅行会社とともに施設・住居の見学ツアーも計画している。

介護職不足が拍車

 高宮さんが懸念するのは、施設や住居を運営、提供する事業所側の事情だ。「介護業界に働き手がいない。首都圏では『入居者より働き手を紹介して』と言われるぐらい。おそらく数年後、福岡もそんな状況になるのではないでしょうか」

 介護人材不足のため新築物件が減り、満室が増え、空き部屋を探すのが難しくなっているという。

 高齢者数のピークは、団塊ジュニア世代が高齢期を迎える2040年ごろとされる。支え手が必要なお年寄りが安心して暮らせる「受け皿」は今後もずっと、確保していけるのだろうか。

    ◇   ◇

 特養、サ高住、有料老人ホーム…。高齢者が自宅を離れ「第二の人生」を送る住まいは多岐にわたるが、住み慣れた地域で余生を送れる人は一握り。背景に何があるのか。運営する介護事業者の「今」を追う。

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