【裁判員制度10年(3)】重い負担 6割超が辞退 経験共有へ「守秘義務」の壁も (3ページ目)

 刑事司法に市民感覚を生かし、その経験を社会に還元する-。誰もが選ばれる可能性がある裁判員制度の定着は道半ば。さらに、裁判員経験の「共有」も課題となっている。

 福岡市内のビルの一室で5月11日、裁判員経験者や弁護士、元裁判官ら11人が菓子やコーヒーが置かれたテーブルを囲んでいた。

 「裁判員になったことも話してはだめなの?」「控訴審が裁判員判決を覆すことはどう思う」

 裁判員経験者の女性と弁護士が2014年に立ち上げた裁判員交流会「インカフェ九州」。18回目となるこの日のテーマは「分かりにくい守秘義務」だった。裁判員経験がない女性2人も「関心がある」と加わり、3時間半、自由に意見を出し合った。

 福岡地裁で15年に裁判員を務めた白石弘子さん(62)が疑問を口にした。「法廷で出た内容は話してもいいと言われたけど、評議の秘密との境界が分からなかった。何となく理解はできるけど…」

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 白石さんが審理を担った殺人事件の裁判員判決は実刑。判決自体に迷いはなかった。ただ、裁判員を終え、気になることがある。被告の男は知的障害があった。評議でもそのことが検討された。刑務所でどんな生活をするのか、社会復帰後の受け皿はあるのか。誰かに聞きたいと思った。でも、守秘義務に尻込みした。

 白石さんは「評議は公判の内容を基に進む。どこまで話していいのか区別がつかなくなって、全て話してはいけない気がした」と率直な思いを語った。

 評議の内容や経過を漏らさないよう課される守秘義務は重荷になるが、裁判員制度には経験を社会に還元する狙いもある。熊本地裁で3月に裁判員を担当した男性は「非常に良い経験になった。自分の子どもたちにも伝えたい」と話した。

 参加した元福岡高裁判事の森野俊彦弁護士(大阪弁護士会)は「裁判官は『経験をどんどん話してください』と背中を押すべきだ。その上で、注意点を丁寧に示せばいい」と指摘する。

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 経験者の負担を減らし、制度の浸透を図る-。より良い裁判員制度にするため、市民の側から裁判所へ働き掛ける動きもある。

 裁判員経験者らでつくる市民団体「裁判員ACT」(大阪市)は1月、大阪地裁に8項目の提言書を提出した。「守秘義務の範囲を具体的に説明する」「裁判官と経験者による公開座談会を開く」ことを求めた。

 ACTの礒野太郎さん(47)は、経験者から「家族にも話すつもりはなく、墓場まで持って行くつもりだった」と打ち明けられた。「抽象的な説明では萎縮する。貴重な経験を重荷にしてはいけない」と思う。

 裁判員法は、制度の趣旨に「司法に対する国民の理解の増進と信頼の向上」を記す。刑事裁判に携わった市民の声が広がってこそ、理解は進み、深い根を張るはずだ。
 

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