M・ジャクソンの右手 小出 浩樹

西日本新聞 オピニオン面

 世界的スーパースターの歌手マイケル・ジャクソンさんと「握手」をした九州人は、意外と多いかもしれない。

 ヤフオクドーム(福岡市中央区)の西側デッキに、本人の右手をかたどったブロンズ製モニュメントがあるからだ。ドームと縁のある著名人の手とともに並んでいる。

 マイケルは1992年から93年にかけ、世界を巡る「デンジャラス・ワールドツアー」を組み、日本では東京ドームと福岡ドーム(現ヤフオクドーム)で公演した。

 福岡公演(93年9月10、11日)は、当時のダイエーグループが主催し、本紙は後援した。取材を担当したのは文化部記者ではなく、社会部記者だった。なぜなら「マイケル・ジャクソン」は、音楽シーンの域を超え、それ自体が社会現象だったからだ。

 「スリラー」などの大ヒット、いい大人もまねようとしたムーンウオーク。加えて、福岡公演の前には、子どもへの性的虐待疑惑報道が米国で過熱した。

 公演は無事に開催されるのか。福岡空港到着時には外国通信社を含め記者50人以上が殺到した。

 私は2日間ともドームで取材し、その前後のさまざまな事象も含めた「マイケル狂騒曲」(当時の見出しから)を記事にした。

 彼が50歳で亡くなって今月で丸10年。インターネット上で、福岡公演にいたというファンの一文に出合った。

 <ステージは暗転していたので、私たち前列の客席からしか見えなかったかもしれません><マイケルが全身を震わせて下を向いて泣きだしたのです。客席の女性が「私たちはあなたを信じ続けますよ」という文字を彼に向けていたのです>(要約)

 後の「若過ぎる死」にもつながる鎮痛剤などの多用は、この頃始まったという。

 同じ年、彼は種々のスキャンダル報道に答えた。「白人になりたくて肌を脱色した」という批判には、白斑(はくはん)という病気であると明かした。後の検視報告で証明された。

 米国では今、性的虐待疑惑に再び注目が集まっているらしい。別の少年への虐待疑惑では無罪となったのに。どんな思いでいるのかい? プロ野球観戦の帰り、ヤフオクドームで「右手」に久しぶりに触れてみた。

 少し驚いたのは手のひらのしわの多さだ。しわは、人生の苦楽とともに増え、深く刻まれるという。福岡での涙もその1本になったのだろうか。当時35歳の「キング・オブ・ポップ」は、既に大きな歴史を背負っていた。
 (論説委員)

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