10歳に押し寄せた罵倒 河津 由紀子

西日本新聞 オピニオン面

 沖縄県に住む10歳のユーチューバーの記事が、こどもの日の地方紙に掲載されたのを機に、少年の投稿動画のコメント欄に中傷や批判が押し寄せた。学校に行くのをやめたという少年は、動画で「不登校は不幸じゃない」と呼び掛け、学校生活に苦しむ子に「死にたくなるくらいなら学校行かんでいいよ」と語る。

 記事には、宿題の拒否をきっかけに、担任の言うことを聞く同級生がロボットに見えたと書かれていた。不登校の理由が、いじめや友人関係の悩みなどといった、世間の抱くイメージからかけ離れていたためか、「社会不適合者」などと罵倒された。

 子どもに、学校に行く義務はない。憲法が定めるのは、子どもに教育を受けさせるという親や社会の義務だ。子どもの権利に詳しい弁護士は、公教育がその子に合わなければ、大人はそれに代わる教育機会を用意する必要があり、この少年については「むしろそうした配慮があるのかどうかが気になる」と話す。

 日本も批准した国連の「子どもの権利条約」は、締約国は子どもの意見表明権を確保すると定めている。子どもが自分に関係する事項について表明した意見は、年齢や成熟度に応じて考慮される、とうたう。子どもには自由に意見を言う権利があり、大人はその真意をくみ取らなければならない、ということだろう。

 かつて虐待問題の取材で出会った少年の言葉を思い出す。「俺は前向きで強い人間だから」。親に虐待され、貯金も周囲の支えもなく独り立ちを迫られた18歳。話を聞いていくうちに、「強さ」とは裏腹、心が折れかねない自身への鼓舞の響きに気付いた。「君は前向きで強いんだから」と軽々には受け取れない。

 くだんの少年ユーチューバーは、まだ10歳。「宿題をやりたくない」は不登校の一因だったかもしれないが、投稿動画では、友人が「おまえとは遊ばない」と去っていったエピソードも語られていた。

 不登校の子の多くは「学校に行かなければ」という呪縛に苦しんでいる。親が「つらいなら行かなくてもいい」と言いつつ、「できれば登校してほしい」と願っていることも感じ取っているという。

 想像力を働かせくみ取れるものはなかったか。大人だって胸の内全てを言語化するのは難しい。子どもの意見表明に対し、年齢や成熟度を考慮することなく中傷を浴びせる社会は、やはりいびつだ。

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 ▼かわず・ゆきこ 福岡県出身。2005年入社。久留米総局、社会部、生活特報部を経てこどもタイムズ編集部。児童虐待、ハラスメント問題など取材。

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