閉館で取り壊しが進む九電記念体育館(福岡市中央区薬院)は市民の思い出が詰まっている…

西日本新聞 オピニオン面

 閉館で取り壊しが進む九電記念体育館(福岡市中央区薬院)は市民の思い出が詰まっている。音楽とスポーツの主舞台だった時代がある。クイーンやサンタナらが熱演し、ボクシングの世界戦も行われた

▼1964年に開館するずっと前の戦争末期、その辺りには旧陸軍の建物があった。「振武寮(しんぶりょう)」と呼ばれた。任務を果たせずに帰還した特攻隊員たちが隔離・収容され、暗い日々を送った。軍が接収する前は福岡女学校(現福岡女学院)の寄宿舎だったという。その地には時代時代の若者の昔日が重なって眠っている

▼近年の九電記念体育館は福岡沖地震で玄界島からの避難先になったりした。七十数年の記憶のフィルムを逆回しにしてみる。「避難所→音楽・スポーツの殿堂→軍の秘密施設→…」

▼現代の都市は「上書き」社会と言ってもいい。至る所にある防犯カメラの録画映像は自動的に上書きされる。上書き保存は電子社会の基本の一つだ。上書き前の諸情報は捨てられ、忘れられる

▼上書きするようにつくり替え、消していく風景を都会は無数に持つ。忘れたくない一風景が福岡市・薬院のあの辺りにある。特に戦争の記憶は捨ててはいけない

▼「振武寮」について証言が得られるようになったのは割と近年のこと。調査してきた西南学院大の伊藤慎二准教授は、関連資料が地中に埋もれている可能性が高い、と体育館閉館に寄せて本紙に書いていた。

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