東南アジアを甘く見るなよ

西日本新聞 オピニオン面

 タイのリゾート地パタヤを拠点に、ニセ電話による特殊詐欺を行っていた日本人グループが現地の警察に不法就労容疑で摘発され、その後日本に移送されて警視庁に逮捕された。

 容疑者らは一軒家を借り上げた「コールセンター」で、日本国内へニセ電話をかける「かけ子」として使われていたようだ。グループには九州出身者もいる。

 一部のメンバーはタイに来る前、フィリピンにいたことが分かっている。「東南アジアならばれない」と思っていたのだろう。

 2年間のバンコク勤務ですっかりこの地域のファンになった私としては、そこが少々不愉快だ。「東南アジアを甘く見るんじゃないよ」と言いたいのである。

   ◇    ◇

 10年余り前、バンコクで勤務していた折に、地元の警察署から連絡があった。「日本の暴力団組員を逮捕した。記者会見を開く」

 どんな重大事件か、と行ってみると何のことはない。日本で覚醒剤がらみの罪を犯してタイに渡っていた組員が、パスポートから指名手配中の人物だと分かり、拘束されたのだった。それだけなら通常は日本に送還して終わりである。

 ところが組員のバンコクの住居からルーレットなど賭博関連の道具が出てきたため、タイ警察はにわかに張り切った。「日本の暴力団がタイで地下カジノを開帳しようとしていた」との見立てで、地元マスコミを集めて大々的に会見を開いたのだった。

 タイでの「日本の暴力団逮捕」は、日本なら「イタリアのマフィアを逮捕」ぐらいのインパクトなのだろうか、と私は推察した。

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 タイでは事件の容疑者を会見に引っ張り出すことがある。警察として捜査の成果をアピールするためだ。この時も、組員は会見場の正面、警察署長の横に座らされ、カメラのフラッシュを浴びていた。

 日本の暴力団の存在はタイでも有名で、「ヤクザ」という日本語を知るタイ人も多い。映画の影響なのか「ヤクザは不始末をすると指を詰める」ということまで知っている。たまたま、この組員も片方の手の小指が欠損していた。

 こうなるとタイの記者たちも興味津々である。それに応じて署長が組員に「手を上げて指をカメラに見せろ」と命令。さらには「どうして指を切ったのか」などと質問する。最初は渋々応じていた組員も、しまいには「関係ないだろ!」とふてくされていた。

 会見終了後、署長が組員の名刺の「若頭」の文字を指さし「どういうポジションか」と私に聞いた。「グループのナンバー2だ」と教えてやると、署長はちょっと得意そうな顔をした。

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 さて今回の特殊詐欺事件でも、拘束された日本人たちは会見場のカメラの前に並ばされていた。うなだれる彼らの映像を見ながら、私は「あー、タイを甘く見るから…」と苦笑した。

 生活習慣がゆったりした東南アジアだから取り締まりも緩かろう、というのは大きな勘違いで、警察はそれなりに仕事をしているし、覚醒剤犯罪などは日本とは桁違いに刑が重かったりする。「なめていると痛い目に遭う。どこであろうと悪いことはしないのが身のためですよ」と東南アジア通として警告しておきます。 (特別論説委員)

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