電撃越境トランプ劇場 米朝首脳会談 改善演出の思惑一致 非核化進展には疑問も

西日本新聞 総合面

 北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が30日、トランプ米大統領からの会談の呼び掛けに応じ、韓国との非武装地帯(DMZ)にある板門店に現れた。軍事境界線上で固く握手を交わした両首脳だが、北朝鮮の非核化と経済制裁緩和を巡る米朝の主張の溝は依然として深い。関係改善を印象付ける劇的な演出も「政治ショーにすぎない」として、交渉の具体的な進展に懐疑的な見方も根強い。

■史上初

 朝鮮戦争(1950~53年)による南北分断を象徴する軍事境界線付近で3度目の対面を果たした両首脳は境界線を越えて北朝鮮側へ十数歩進み、再び肩を並べて韓国側へ。正恩氏が「史上初めてわれわれの地を踏んだ大統領になる」と持ち上げると、トランプ氏は「世界にとって素晴らしい日になった」と応じた。

 米朝首脳は韓国側の施設に移って会談。前日、トランプ氏は「2分間会う。それで構わない」と正恩氏に呼び掛けたが、結果的に会談は約50分間にも及んだ。

 慶応大の小此木政夫名誉教授は「米朝間で何度も首脳会談を積み重ねるやり方が定着した。主張の溝が埋まったわけではないが、議論する環境が整備された」と前向きに評価する。

 韓国紙によると、米国のビーガン北朝鮮担当特別代表と北朝鮮の崔善姫(チェソンヒ)第1外務次官は前夜、板門店で首脳会談に向けた実務協議を行ったとされる。

 トランプ氏は今回の会談で正恩氏をホワイトハウスに招待するなど次回の首脳会談に意欲を示した。だが過去2回の首脳会談は事前の実務者間の交渉が機能せず、妥協点を見いだせないままトップ同士が会談に臨んで成果を得られなかった。次回も事前協議が進まないまま首脳会談を開けば、再び決裂という事態に陥る恐れが強い。今後、2~3週間内に再開される予定の実務者協議が鍵を握る。

■驚いた

 正恩氏は会談で、トランプ氏からの会談要請について「驚いた」と明かした。ツイッターでの呼び掛けは、トランプ氏の即興的な手法との見方がある一方で、複数の米メディアや韓国の研究者には「事前に準備された政治的な演出」との見方が強い。

 来年に大統領選を控えるトランプ氏にすれば、強硬策一辺倒のイラン情勢が行き詰まる中、貿易協議再開で合意した前日の米中首脳会談に続き、北朝鮮との対話継続を示すことができた意義は大きい。ただ、選挙が近づくほど、外交に専念できる時間は限られる。非核化交渉の合意を「急いでいない」と強調するトランプ氏だが、北朝鮮は年内を交渉期限に設定しており、両者が早期決着を模索するとの観測もある。

 正恩氏も制裁の長期化を避けたいのは間違いない。トランプ氏が大統領選へ向けて外交成果を焦ると踏み、制裁緩和を強く求める可能性もありそうだ。

■薄い影

 「きょう、朝鮮半島は地球上で最も注目を集める地になった」。韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は米朝首脳会談に先立つトランプ氏との共同記者会見で高揚感を隠さなかった。ただ、米朝の「仲介役」を自任してきた文氏は会談自体には同席せず、微妙な立ち位置にあることをうかがわせた。

 今回の米朝会談はトランプ氏の提案で実現し、文氏の影は薄かった。元徴用工裁判問題を巡り日韓関係が悪化する中、大阪での20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で安倍晋三首相との会談が実現せず、韓国メディアでは外交手腕を疑問視する報道も増えている。

 北朝鮮メディアは6月下旬、「(米朝対話は)韓国当局が口を挟む問題ではない」とする外務省高官の談話を発表。韓国を突き放す姿勢を強めており、文政権が今後、米朝間でどう立ち回るかも焦点の一つになりそうだ。(ソウル池田郷、前田絵、ワシントン田中伸幸)

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「仲介役」中国存在感

 【北京・川原田健雄】中国の習近平国家主席は6月下旬から金正恩朝鮮労働党委員長、トランプ米大統領と相次いで会談し、米朝対話の再開に向けた「仲介役」を演じた。今後も北朝鮮の後ろ盾として存在感を示し、貿易問題で対立する米国をけん制する構えだ。

 習氏は6月20、21日に北朝鮮を訪問し、正恩氏と会談。「国際社会は朝米が交渉を続け、成果を出すことを望んでいる」と述べて対話再開を促した。29日には大阪でトランプ氏と会談し、米朝対話への支持を表明した。積極的な動きが結果として3回目の米朝会談につながった形となり、習氏も歓迎しているのは間違いない。

 朝鮮半島の非核化問題は、中国にとって米国と協調できる数少ない「カード」だ。米朝対話に協力姿勢を示し、米中関係改善の手助けとしたい思惑もある。

 ただ、米国主導で非核化交渉が進み、朝鮮半島で米国の影響力が強まる事態は避けたいのが中国の本音だ。習指導部は「朝鮮半島問題で中国は積極的かつ建設的な役割を果たす」と繰り返し強調する。習氏は27日の安倍晋三首相との会談で「日朝関係に関する日本の立場を正恩氏に伝えた」と明かし、日本人拉致問題にも関与する姿勢を示した。

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