「5年の約束」のツケ 田篭 良太

西日本新聞 オピニオン面

 「慢心しないこと」

 6月下旬、原子力規制委員会の更田豊志委員長は、定例の記者会見で、原発事故を防ぐために最も重要なことは何かと問われ、こう答えた。

 規制委の役割は「ずっと接しているうちに、規制する対象を保護すべきだと考えがちになる。そういう、なれ合いのない関係を(電力会社と)築くこと」と強調した。

 この言葉を体現する判断の一つが、原発のテロ対策施設を巡る停止命令方針だ。

 東京電力福島第1原発事故を教訓に設置が義務付けられたテロ対策施設は、原発本体の主要審査後5年以内という完成期限が定められている。九州電力など電力大手各社は4月、完成が1~3年程度遅れるとの見通しを規制委に報告した。規制委は猶予を認めず、期限が守れない場合は原発の運転停止を命じると、5人の全委員一致で決めた。

 九電川内原発1号機(鹿児島県)では、テロ対策施設の審査自体に3年超かかり、工事計画の認可が出そろったのは今年2月。この時点で期限まで約1年しか残されていなかったが、原子力規制庁幹部は「役所が工事をするわけじゃなく、スケジュール感などは分からない。間に合わないと思っていたのなら、前もって言うべきだった」と電力会社の責任を強調する。

 原発を推進する政府も「原発が止まれば電力会社の収益が悪化して、国民の電気料金負担は増える。電力会社はしっかり対応してほしい」(経済産業省幹部)と突き放す。

 九電とは別の大手電力幹部は「5年あればできると漠然と考えていた面はあるが、後回しにしたわけではない」と釈明した上で、「一企業としては一つの原子炉が再稼働すれば、次の炉の再稼働に注力したくなるもの。結果的には、急いで動かした原発が停止リスクを負うことになってしまったが」と打ち明ける。

 政府だけでなく電力業界も「安全・安心を絶えず追求し、福島の事故で損なわれた社会の原発への信頼を取り戻す」と繰り返している。事故の教訓を反映した「約束」が守られないようであれば、信頼回復は遠い。

 一番の責任はもちろん、電力会社にある。ただ、経産省も突き放すばかりではなく「規制」とは別の意味で、業界を監督できていたのか。規制当局も、なれ合い排除の理念を守りつつ、切羽詰まる前に対応は取れなかったのか。

 守られない約束のツケは、負担増という形で国民に回る。「何とかなるだろう」「何とかするだろう」。電力会社や国に、そんな慢心はなかったか。 (東京報道部)

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