引きこもり15年 自立へ一歩一歩 福岡市の29歳男性 漢字ドリル、九九復習… 支援団体と二人三脚で

西日本新聞 くらし面

 80代の親が50代の子を養う「8050問題」が注目される中、引きこもりになった若年層の就労をどう支えるか課題になっているが、心の傷などですぐに働けない人は多い。中学校から15年間、福岡市の自宅で過ごした男性(29)もその一人。支援団体と二人三脚で就労を目指す現場を訪ねた。

 6月のある日、同市のマンション。男性は、一般社団法人「福岡わかもの就労支援プロジェクト」の鳥巣(とす)正治代表理事(60)と向き合った。週1回の面談日。鳥巣さんが尋ねた。

 「バイトはどうや? みんな優しい?」

 「ミスはしましたけど、あめ玉をくれたりして…」

 この数日前、スーパーでアルバイトを始めていた。言葉に詰まり、返事に時間がかかる。それでも、小さな声でとつとつと答えた。

 男性は中学1年の1学期から引きこもりがちになった。月2、3日ほど登校できても、早退した。夜中までテレビゲームをし、昼に起きる。弁当などを買いに行くほかは外に出ない。高校にも進まなかった。

 20代前半の頃、一度だけ母と公的な就労支援機関に相談したことがある。しかし肌に合わず、28歳までそんな日々を送った。

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 男性が鳥巣さんと出会ったのは昨年9月、母と相談会に参加した時だ。30歳を前に焦りもあり、支援を受けることにした。

 やることは主に三つ。事務所がある同市のマンションで週1回、鳥巣さんと面談する。同じ利用者やスタッフとの交流行事に参加する。アルバイトなどで働いてみる‐ことだ。

 面談は悩みを聞き、やる気を引き出し行動を促す「コーチング」という人材開発の方法で進められる。まず半年後の目標を問われ、何か仕事をすると決めた。

 最初は「できません」という言葉が多かった。面談記録には「話せない」「漢字が不得意」。交流行事も「知らない人がいて楽しくない」とある。

 それでも、引きこもりの経緯や悩みを話すうちに気分が晴れた。面談は1回60~90分。事務所まで自転車で30分かかるが、欠席したことはない。食事会や自転車での遠出など、月1回の行事も毎回参加し、人と話すことや外出に慣れていった。「失敗してもいいやん。経験になる」という言葉に後押しされた。

 次に問われたのは、高校卒業程度認定試験(旧大検)を受けるか、仕事に就くか。就労を選ぶと「じゃあ漢字くらいは書けないと」と言われ、小学4年の漢字ドリルや九九の復習を始めた。日記も付けている。何かをやり終えるたび「ほら、できるだろ」と認められるのがうれしかった。

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 男性は1月、初めてのアルバイトをした。中学校で体が不自由な生徒を手助けする仕事。生徒に囲まれて強く悔やんだという。「自分も学校に行っておけば…」。二度と空白の時間をつくらないと決めた。

 今のアルバイト先では、引きこもっていたことを面接で正直に言えた。履歴書も自分で書いた。次は何の仕事でも、正規雇用を目指したい。重ねた面談は40回近い。「親に迷惑を掛けた。ちゃんと仕事をして楽にさせたい」。声は小さくても、そう言えるようになった。

■鳥巣代表理事に聞く 成功体験重ね自信回復を

 一般社団法人「福岡わかもの就労支援プロジェクト」の鳥巣正治代表理事は2015年に団体を設け、引きこもりやニートなど19人を就労に導いた。面談や交流行事などを通し、成功体験を積み重ねて自信を取り戻すことを重視している。

 支援を求める若い人は、退学や就職の失敗、親との関係悪化などで負の感情がたまっているという。「面談で質問し、傾聴し、認める。まずは負の感情を吐き出すことが大事」と語る。

 目標は半年での就労。「毎日5キロ歩く」「週2回ボランティアをする」など課題を設けてクリアし、自信をつける。履歴書の書き方や面接の練習もする。

 法人は福岡県内と佐賀県鳥栖市に計6拠点を置き、相談会を月1回開く。面談などはスタッフである「コーチ」12人が担当。寄付と賛助会員の会費で運営し、就労した「卒業生」が賛助会員になることも多い。

 鳥巣さんは、引きこもりの原因に核家族化があると見ている。「昔はおじやおば、近所の人など、悩みを相談できる人が多かった。ここではコーチがその役。支援の担い手は多ければ多いほどいい」と話す。

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 7月の相談会は15日午前10時~午後5時、福岡市中央区今泉の市NPO・ボランティア交流センターあすみん。1組80分で5組まで。参加無料。要予約=080(5456)6060。

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