恵みの土地 諦めない 荒れた農地 自力再開も 復興の途上で~九州豪雨2年(下)

西日本新聞 社会面

 段々畑の一角で、柿農家の坂本正広さん(68)が、はさみを手に摘果作業に追われていた。特産「志波柿」で知られる福岡県朝倉市の杷木志波地区。頭上には厚い雲が垂れ込める。

 「2年前も同じ作業してたんだ」

 あの日、小集落を濁流が襲った。自宅は全壊し父から受け継いだ柿畑の多くを失った。辛うじて残った畑には大量の土砂が堆積。それを、ボランティアの力を借りてかき出し、自力で復旧させた。「1本の枝につく実は一つ。日当たりを考えて枝も切らなきゃいけないし手入れは大変。でも志波柿が作れて幸せだよ」

 周囲を見渡すと、えぐられた斜面は赤茶けた山肌をさらし、寸断された運搬用レールは雑草が覆ったままだ。かつて37世帯が住んでいた集落の多くは柿を作っていたが、再開できたのは半分程度。「作業道がやられ、手入れしたくてもできない農家もいる」

 今は車で15分ほどかけて畑に通う。自らが一歩踏み出すことで、二の足を踏む仲間の背中を押せればとも願う。11月には地区恒例の収穫祭も。作った柿を心待ちにしている人たちの存在が励みだ。「どうにかして作らんと。諦めるわけにはいかん」

 農家にとって生活の糧であり、生きる糧でもある農地。市内の被災農地は約760ヘクタールに上る。うち7割を占める平野部はほぼ原形復旧したが、杷木志波地区を含む山間部や流域部の復旧はこれから。川沿いの計約150ヘクタールは被害が大きく元の形に戻せないため、市は区画整理による抜本的な農地改良復旧計画を立て、5年以内の工事完了を目指す。しかし、緊急性の高い河川工事が優先され、農家の間に先行き不安がくすぶる。

 そうした中、計画対象地の一つ、同市黒川地区は川の氾濫や土砂流入で水田の大半が被災したが、農家自らあぜを整えるなどして田の一部を復旧。昨年、米作りの再開にこぎ着けた。

 農家の動きと呼応するかのように、福岡や東京など都市部住民と年間契約を結び黒川米を販売する復興プロジェクトが始動。「米を食べてもらい、黒川の田んぼと風景を守っていきたい」との呼び掛けに、賛同者の輪は広がり、2018年産米の契約実績は目標の3・5トンを超え4トンに。2年目の今年から、協力農家は4戸から9戸に増えた。

 「百姓の本分は作物と対話しながら本物に育てること。その姿勢は味を通じて必ず消費者に伝わる。豪雨を通して、この地がもたらす恵みのありがたさを思い知ったね」。中心メンバー鳥巣良彦さん(64)の言葉に力がこもる。

 実を結び始めた取り組み。しかし、市の農地改良復旧計画が皮肉にも水を差す事態になりつつある。今後、9戸の水田計3ヘクタールのうち約8割が工事の対象になるのだ。鳥巣さんは計画に理解を示しながらも、「工事の工程が見えず、今後どれほど米が作れるのかわからない」と表情を曇らせる。

 高く積まれた残土の山、頻繁に行き交う復旧工事の大型トラック…。復興への道のりはまだ険しい。

 黒川の地で農業が続けられるよう、ここで生きていける基盤をつくりたい。それが自分の役目だと鳥巣さんは信じる。「黒川には四季折々、風の香りがある。ここは良いところなんだ」。一歩ずつ、着実に。この地から風を吹かせていく-。

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