戻る、戻らぬ 揺れ続け 資金、法律 自宅再建に壁 復興の途上で~九州豪雨2年(中)

西日本新聞

補修中の自宅(左)そばに立つ白石勝利さん。赤谷川(右)の護岸は土のうや石を積んだだけの応急復旧にとどまる=福岡県朝倉市 拡大

補修中の自宅(左)そばに立つ白石勝利さん。赤谷川(右)の護岸は土のうや石を積んだだけの応急復旧にとどまる=福岡県朝倉市

福岡県朝倉市の杷木寒水地区と杷木大山地区

 「勧告がまた出ましたね。やっぱりまだ家には戻れない」。梅雨前線の影響で福岡県朝倉市内に避難勧告が出された6月末、応急仮設住宅に暮らす白石勝利さん(51)は雨空を見上げた。

 2年前。床上まで土砂が流れ込み、流木に傷つきながらもわが家は濁流に耐えた。同市杷木大山の自宅裏を流れる赤谷川の氾濫で流域の多くの家が流れにのまれる中、頑丈な基礎やブロック塀に守られ「半壊」で済んだ。「家が残っただけでも」。当時の家族の安堵(あんど)はしかし、その後、深い葛藤の種となる。

 白石さんの最大の悩みは8月に迫っている入居期限だ。近くに建設中の災害公営住宅入居も考えたが半壊した家の解体が前提条件。補修すれば十分に住める家を、大金を払って壊す気にはとてもなれなかった。

 そんな中、赤谷川の流路を自宅から30メートル以上離れた場所に変える復旧構想が浮上。「他の土地を買って再建するお金なんてない。安全になるなら元の家に帰ろう」。数百万円かけ補修工事を始めた。しかし…。

 「あそこはまだ怖い。戻りたくない」。母の君枝さん(79)が強く反対した。裏庭の護岸は、土のうや石を積んだだけの応急復旧。本格復旧の完了時期が分からない中、君枝さんの不安はもっともだった。

 母が1人の時に大雨が来たら-。家族で話し合った末、7月には自宅の補修が終わり帰ることはできるが、川の工事が終わるまでは戻らず、賃貸住宅を探すことにした。「住める家があるのに別に家賃を払うのは痛い。でも家族の命には代えられない」

 白石家から西へ約2キロ。朝倉市杷木寒水(そうず)の自宅が大規模半壊した50代の女性は年賀状にこう決意を記した。「今年は家を建てます」

 結婚を機に30年暮らした思い出の地を離れることはできない。昨夏ようやく自宅の解体を終え、元の敷地に再建するつもりだったが、今年に入って示された寒水川の改良工事計画に言葉を失った。拡幅される河川や工事に伴う迂回(うかい)路が敷地にかかる恐れがある。今後土地がどれくらい残るのか見通せず、自宅の設計など再建への手続きに入れないでいる。

 5キロほど離れた福岡県うきは市で入居中のみなし仮設は8月が期限。義母が歩いて買い物に行ける点を考慮し当面は市内で別の賃貸物件に入る。女性が元の地で自宅を再建すれば最大620万円の支援金などが得られる。一方、うきは市に建てても最大420万円は保証される。支援金の申請期限は来年8月。「一番の希望は元の場所での再建。でも、うきはの生活に慣れてきている自分もいる」

 朝倉市が実施した被災世帯への住まいに関する調査では、5月時点で9割が「再建済み」か「再建予定」という。しかしその中には、再建場所が決まらず、賃貸物件など仮住まいを選んだケースが少なくない。

 家が流されみなし仮設で暮らす大分県日田市の山本一二(いちじ)さん(65)は脚に障害があり、元の地にバリアフリー対応の家の再建を計画。だが、敷地の大部分は河川や道路拡幅にかかる見込みで、別に所有する農地に建てようと試みた。しかし農地法により宅地への転用が許されず頓挫している。「他に土地を買う余裕もないし、どうしようもない」

 安全への不安、拡幅工事、法の壁…。戻るべきか、戻らぬべきか、被災者の心は揺れ続ける。

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