【ハンドルの先に 高齢運転考】(下)暮らし支え合う道を

西日本新聞 社会面

 首相官邸で6月18日にあった交通安全に関する関係閣僚会議。安倍晋三は「高齢運転者対策は技術の進展も的確に取り入れて進める」と強調し、緊急対策を発表した。自動ブレーキや踏み間違い加速抑制装置を備えた「安全運転サポート車」に触れ、「事故防止に有効。普及を加速させる」と語った。

 75歳以上のドライバーが昨年に起こした死亡事故は460件。原因は、アクセルとブレーキの踏み間違いなど「操作ミス」が136件と最も多かった。政府は、年内をめどに新車への自動ブレーキ搭載を義務付けるか決める方針だ。

 「年金暮らしには厳しいな」。福岡県うきは市の小田勝三(87)=仮名=はため息をついた。軽自動車の新車平均価格は142万円(総務省調べ)。手は届かない。

 市が4月に始めた助成金を利用し、後付けの急発進防止装置を購入した。手出しは2万1600円。市には2カ月で48件の申請があり、予算枠(110万円)を使い切った。市民協働推進課の古賀一聡係長は「農業が盛んな地域。高齢の担い手が多く車は欠かせない」。

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 熊本県阿蘇市の西村伎久乃(きくの)(81)は安全協会が認定した「免許返納アドバイザー」という肩書を持つ。5月中旬、地元の高齢者約30人に「語り部」として返納後の生活を語った。「友情のおかげで不便はないよ」

 センターラインが二重に見える異変を感じ、決断した。買い物や習い事は友達の車に乗せてもらう。事故のニュースに触れるたびに「返納して良かった」と思う一方、周囲に無理強いはしない。市の中心部に暮らす自分と、山間部の生活は比べられない。

 政府は安全運転サポート車の先を見据え、2025年ごろには「レベル4」(特定の条件での完全自動運転)の技術開発を目指す。

 ただ、その政府が「自動ブレーキは万能ではない」と警鐘を鳴らす。自動ブレーキの誤作動事故は17年に82件発生した。

 「希望ではあるけどね…」。齢(よわい)を重ねた西村にとって、あまりにも遠い話だ。

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 梅雨の晴れ間の6月20日。鹿児島県出水市の量販店にマイクロバスが到着した。十数キロ離れた大川内地区から訪れた高齢者6人は、買い物を楽しんだ。「7月は夏服を見に行こう」と盛り上がった。

 地区の高齢化率は54%、10年前にスーパーがなくなった。コミュニティー協議会が4月から月2回、バスを運行している。二つの社会福祉法人が地元への貢献策としてバスを提供、費用も負担する。

 熊本県益城町の津森仮設団地。NPO法人「イーモビネット」は熊本地震から9カ月後の17年1月から週1回、車を失った高齢者らをスーパーや病院に送迎している。運転するのは元気な高齢者だ。今秋には区域を広げる計画もある。「高齢者自身が自分たちの足を守るノウハウを確立したい」。代表理事の鶴岡良一は語る。

 返納しても、しなくても、安全に豊かに暮らすには‐。高齢者の単身世帯が増え、近所の支え合いにも限界がある。行政や高齢者だけでなく、社会全体でしなやかに考えたい。 =敬称略

高齢者の運転免許証返納

 2018年の75歳以上の免許返納者は全国で29万2089人、10年間で14倍超に増えた。九州7県では3万2416人。保有者全体のうち返納者の割合は全国7・24%。九州7県は4・98%で、大分(5・65%)▽佐賀(5・25%)▽福岡(5・12%)の順に高く、熊本(4・18%)が最も低かった。政府は高齢者が運転を続けられるよう、安全運転サポート車限定の免許を検討している。

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