【ハンドルの先に 高齢運転考】(中)衰えの自覚が第一歩

西日本新聞 社会面

 看護師の鷹木奈美子(51)は、糖尿病と高血圧を患う男性(81)に語り掛けた。「運転中、あめは持っていますか」「喉が渇かなくても水分を取って」

 熊本県警高森署で6月中旬にあった高齢ドライバーの相談会。免許センター職員の鷹木は、水分不足は脳梗塞の一因になると説明した。「水は持たん」と話していた男性は、10分の面談で「小まめに飲むようにする」と納得してくれた。

 県警は2015年、全国で初めてセンターに看護師を配置し、現在3人が働く。「警察官より医療の知識がある看護師の方が高齢者に受け入れられやすい場合もある」(県警幹部)と手応えを感じている。

 相談会では認知症の簡易検査もし、病気の疑いがあれば病院につなぐ。鷹木は「体の不調は自分では気付きにくい。早期発見は事故防止につながる」と話す。

 センターに医療系職員を配置する取り組みは、40都道府県警に広がった。

   ◇    ◇

 「まだ元気よ。家族に頼みづらいし、免許更新してあと3年は運転する」。鷹木から免許の返納を助言されても、耳と足が不自由な女性(83)は宣言した。

 コンサルティング会社MS&ADインターリスク総研(東京)は17年、千人に運転に自信があるか調査した。「ある」と答えたのは65~69歳51%▽70~74歳60%▽75~79歳67%▽80歳以上72%。年齢が高いほど自信を持つ傾向にあった。

 一方、警察庁の有識者会議は同年、加齢による運転リスクを指摘。視力やブレーキを踏む力の低下を挙げ、注意を呼び掛けた。

 帝塚山大の蓮花一己学長(交通心理学)は「『数十年間無事故だった』という経験が自信となり、助言が届きにくい人もいる」。

   ◇    ◇

 ハンドルさばきは軽快だった。男性(81)は6月下旬、鹿児島県警が阿久根市で開いた講習会に参加した。運転シミュレーターの技能評価では「5段階の上から2番目」。それでも「年齢を考慮し、雨天や夜間は運転を控えましょう」と「補償運転」を促された。

 天候や体調が悪いときを避け、条件がいいときだけ運転する補償運転。県警は18年2月から「ちゃいっぺ運転」(急がず、お茶を飲んでいってという意味の方言)と銘打ち、普及を図る。富山県警は18年4月から、申告した運転条件を半年間守ったドライバーに認定証を贈っている。条件を守った137人は無事故だった。

 福岡市早良区であった多重事故後の6月17日。日本自動車連盟(JAF)福岡支部は有料講習会を開いた。定員20人に対し、50人以上の応募があった。「運転に悪いところはないか知りたい」。冷静に受け止める人が多かった。

 体力の衰えを補い、運転に向き合おうとする人は増えている。鹿児島県警交通企画課の下池勇作理事官は言う。「老いの自覚と自分に合った運転が、安全の第一歩になる」 =敬称略

補償運転と限定免許

 補償運転は、ドライバーが天候や時間帯など運転する際のルールを自主的に決める取り組み。警察庁が2017年から提唱している。限定免許は公的に条件を決めて免許を交付する制度。日本ではオートマチック車限定免許がある。ドイツやスイスが導入する限定免許は運転は昼間に限り、場所も制限する。米国の州では病院など目的地を特定した免許もある。

福岡県の天気予報

PR

PR

注目のテーマ