「安定」の内実見極める時 東京支社報道部長・植田祐一

西日本新聞 一面

 世界のリーダーが集ったG20大阪サミットの余韻が残る中、参院選が公示された。自民党が公約のトップに掲げたのは「力強い外交・防衛」。世論調査をすれば、社会保障の充実や景気対策を求める有権者が大多数であることを承知の上での「イチ押し」である。

 公約パンフレットには、トランプ米大統領とゴルフに興じ、国際会議で首脳たちの視線を集める安倍晋三首相の写真がちりばめられている。込められたメッセージは「枝野さんがトランプ氏と渡り合う姿は想像しにくいでしょ」。立憲民主党の枝野幸男代表に安倍首相の代わりが務まるのか‐との含意があるらしい。

 第2次安倍政権の発足から6年半が過ぎた。アベノミクスは息切れし、憲法改正もままならない。選挙の旗印が見つからず、安定感をアピールするしかなくなった政権が、不確実性が高まる世界情勢を逆手に取って、有権者の不安心理に訴えかけているわけだ。

 今回の参院選は安倍長期政権を有権者がどう評価するかが焦点になる。首相は福島市での第一声で「あの時代に逆戻りするわけにはいかない」と2度も繰り返したが、民主党政権を思い出させる「殺し文句」に萎縮して、目を曇らせるわけにはいかない。

 見極めたいのは政権の胆力だ。私たちの暮らしに正面から向き合おうとしているのか。ばら色の未来が望めないなら、国民と一緒に考えようとしているのか。

 選挙前に「不都合な真実」を覆い隠す姿は、そこに疑念を生じさせている。首相は老後2千万円の報告書を「なかったこと」にしたばかりか、さらなる消費税増税は「今後10年くらいは必要ない」と言った。早くも与党から異論が出ている。

 日米貿易交渉では、成果を急ぐトランプ氏に「借り」をつくってまで本格協議を参院選後に先送りした。米国にどこまで譲歩するつもりなのか、本当のことを聞いて判断したい農家や産業界を置き去りにしている。

 時の首相が都合のいいタイミングで解散する衆院選と異なり、参院選は3年ごとに訪れる。過去には与党が惨敗し、政権交代の起点になったこともある。無論、野党の公約に現実味がなければ、有権者は現状維持を選択するだろう。

 長らく「安定」を求めてきた民意が「変化」への恐れを解き放つ転換点になるのかどうか。この選挙の持つ意味を考えながら、論戦に耳を傾けたい。

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