ダビンチVS作兵衛さん 吉田 昭一郎

西日本新聞 オピニオン面

 数々の炭坑記録画が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」になった福岡県・筑豊の炭坑絵師、山本作兵衛さん(1892~1984)。彼の女坑夫の絵は、人の心をとりこにする。

 「ダビンチの『モナリザ』に負けません」。北九州市在住のイラストレーター黒田征太郎さんがそう評したと、田川支局長のコラムで知り、黒田さんに会いに行った。

 「比べるのも失礼ですよ。モナリザよりずっと大きくて、やさしい。モナリザは誰か力のある人の注文で描いたんでしょう。気高さを作為的につくったんだと思うんです。作兵衛さんの絵は、あふれ出てくる思いが描かせている」

 黒田さんは、作兵衛さんの絵を初めて見た時、「殴られた感じ」がし、「さしたる苦労もなく、絵のようなものを描いて食っている」自らを揺さぶられたという。「作兵衛さんが描いた炭坑の人たちって、いつも死と隣り合わせで、生きるために必死だったと思う。それがこう紙を、絵の具を、印刷っていうものを突き破って、伝わってきた」

 明治から昭和まで半世紀、筑豊各所の中小炭鉱で働いた作兵衛さん。ガス爆発や落盤、出水とどれだけの事故を見たか。搾取も暴力も経験したろう。とことん働いた先に、60代半ばから92歳で亡くなる直前まで、とめどなく描いた。その数、2千枚とも。うらみ、つらみをこぼさなかったという作兵衛さん。いかなる心魂が絵に向かわせたのか。

 「カネのためじゃない。子や孫に炭坑のことを伝えたいという、まっとうに生きる者が持ち合わせるプライドも伝わってくる。小手先がうまいということではなく、全身をかけて、心から出てくるものを描き出す。炭坑で働く者への愛情がある。どこか、温かみと裏表のユーモアもある。鎮魂の思いも感じる」。黒田さんの絶賛は延々と続く。

 黒田さんは田川市の依頼で今春、田川伊田駅そばの通路壁に作兵衛さんの炭坑記録画を模写した。これまで個人的に100枚ほど模写してきた。作家の野坂昭如さんの戦争童話集を絵本にした時と同じように、敬意を寄せるものにつながりたいという思いが、そこにはある。

 記録映画「作兵衛さんと日本を掘る」が6日、福岡県内のKBCシネマ、小倉昭和館、セントラルシネマ大牟田で公開される。小倉昭和館では7日、黒田さんと熊谷博子監督のトークイベントがある。
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 ▼よしだ・しょういちろう 熊本市出身。編集センター、社会部、文化部、宮崎、筑豊両総局、加治木、島原、唐津、平戸各支局を経て都市圏総局。

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