私が投票しない政党

西日本新聞 オピニオン面

 参院選が始まって、世間も騒がしくなった。掲示板のポスターのわざとらしい笑顔が、この時季の暑苦しさに拍車を掛ける。

 さて私は選挙での投票先を選択する際に、一つの基準を設けている。今回それを紹介するが、あくまで個人的な基準であり読者に勧めようとは思っていない。むしろ政党に「こういう基準の有権者がいる」と知ってほしいと考えている。

 その基準とは「タレント候補を擁立した政党には投票しない」というものだ。

 ここで言うタレント候補とは「政治・経済や社会活動とは関係のない、芸能やスポーツなどの分野で知名度を上げた人物」で、なおかつ「これまで政治や社会的な問題について発言がなく、当選してもどういう活動をするのか見当がつかない候補」と定義しておく。

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 1996年秋、自民党の橋本龍太郎首相が衆院解散を決意し、総選挙が実施されることになった。その頃の最大野党は小沢一郎党首率いる新進党。小選挙区制導入後初の総選挙とあって、二大政党による政権選択選挙の期待があった。

 当時私は新進党の担当記者だった。そうした中で、新進党が小選挙区にタレントの野村沙知代氏の擁立を決め、記者会見を開いた。

 沙知代氏はプロ野球監督の野村克也氏の妻。サッチーの愛称で、毒舌ぶりがバラエティー番組の人気者だった。小沢党首が直々に立候補を要請したという。

 サッチーの会見は人を食った発言の連発だった。「公約は何か」を問われると「実行できるかどうか分からないので言わない」。会見終了間際、新進党の選対幹部の議員が「党としても全力で支援します」と言うと、サッチーは疑わしそうに「ほんとですか~」。ぬるい笑いが広がった。

   ◇    ◇

 私はその時、自分が担当する党でありながら、新進党にほとほと愛想が尽きたのを覚えている。

 公約も言わない候補に「有名人」というだけで票が集まると思っているのなら、それは有権者のレベルをなめ過ぎではないか。有権者をばかにしている政党に未来があるだろうか。

 選挙中のある夜タクシーに乗ると、運転手さんが「新進党もダメだねー。サッチーとかガッツ石松とか立ててさー」と嘆く。これは運転手さんの勘違いで、ガッツ石松氏もその時の選挙に出ていたが、自民党公認だった。サッチーの印象が強過ぎて混同したのだろう。しかし私には彼の誤解を正す気力もなかった。

 結局、サッチーは落選した。新進党は翌年の末に解党してしまった。今では覚えている人も少ない。

 サッチーも個人としてはなかなか愛すべき人だったのだろう。私が問題にしているのは、あくまで政党の姿勢の方である。

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 政党がタレント候補擁立に積極的なのは、知名度による一定の集票が見込まれるからだ。特に参院選の比例代表では、個人名の票も政党の票とカウントされるため、党全体の票の底上げを期待できる事情もある。

 しかし、その集票の一方で、逆にどれだけの票が逃げているか、一度考えてみてはいかがだろうか。

 有権者は「自分がなめられている」ということに気付かないほど、お人よしではないのですよ。

 (特別論説委員)

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