徴用工、譲れない文政権 背景に韓国国民の政治意識や内政問題

西日本新聞 総合面

 【ソウル池田郷】韓国最高裁が昨年10月、日本企業に元徴用工への賠償を命じた判決を巡る問題で、日本政府が事実上の対抗措置に踏み切ったことから、日韓の対立が先鋭化している。文在寅(ムンジェイン)政権は一貫して「行政府は司法府の判断を尊重しなければならない」と強調。1965年の日韓請求権協定で賠償問題は解決済みとする日本の主張には直接反論しない姿勢を取る。日本側には理解しがたい文政権の対応の背景には、韓国国民の政治意識や内政問題が複雑に絡む。

■当為と法治

 「韓国人は『現状に問題があるならば、過去のルールにとらわれず、改善すべきだ』との意識が、日本人よりも強い」。ソウル出身で知日派の政治経済学者ロー・ダニエル氏は、韓国人の政治意識を「当為主義的だ」と分析する。

 当為とは、倫理的な概念で「あるべきこと」「なすべきこと」を意味する。ロー氏によると、韓国人は「あるべき理想」に現実を近づけるため、法や条約を改変することに日本人より抵抗感が小さい。

 文氏が徴用工問題について「韓日協定(日韓請求権協定)があったとしても、(中略)被害者の苦痛がいまだ残る事実を受け入れなければならない」と主張するのも、当為主義的な考え方が反映しているという。

 対照的に日本人は「利益が相反する問題解決の手段としてルールや合意を重視する法治主義的な意識が強い」とロー氏は見る。だからこそ日本側は日韓請求権協定に矛盾するような韓国側の対応に「信頼関係が著しく損なわれた」(安倍晋三首相)と強く反発した。

 首相は今回の措置を世界貿易機関(WTO)協定に違反しないと強調する。だが議長国を務めた20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)で、首相は「自由貿易の基本的原則を確認できた」と胸を張っただけに、ちぐはぐな印象は拭えない。国内でも輸出規制の対象となった部材や装置の内製化が韓国で進んだり、韓国企業の設備投資が低迷したりして受注が減少する恐れに懸念の声が上がる。

■保革の確執

 「日本の過ちとは別に、文政権の対応には深刻な問題がある。この8カ月間、ただ手をこまねいてきた」。保守系韓国紙は連日、文氏の対応を批判している。

 ただ、文氏の支持率は上昇に転じている。6月30日に米朝首脳が電撃会談したこともあり、文氏の支持率は同28日の47・4%から7月3日には53・5%と持ち直した。

 韓国国内ではこれまで、元徴用工問題の解決のため日本企業だけでなく韓国政府も資金を拠出する救済策を求める声があった。元徴用工訴訟の原告団も対応策を示さない文政権にいら立ちをにじませていた。だが今回、日本が対抗的なカードを切ったことで、韓国世論の批判の矛先が安倍政権に集約され、元徴用工問題そのものを解決しようという声はかすんでいる。

 保革の対立が続く韓国政治史の中で、文政権の政治家や高官は1980年代に民主化運動の最前線にいた世代だ。日本の植民地支配に協力し、さらにかつての軍事独裁政権を支えた保守派への強烈な対抗心がある。文政権が掲げる「親日清算」も、いわゆる「反日」というより保守派の既得権を打破する意味合いが強い。

 文政権に近い研究者は「文氏は保守派と戦っているだけで、日本に敵意はない。関係悪化も望んでいない」と強調する。だが、文政権がその意図を日本側に伝えようとした形跡は水面下も含めうかがえない。日本外交筋は「文政権は日本とのパイプが乏しく、落としどころを探るような交渉もできていない」と明かす。

 解決策が見えない中、韓国政治に詳しい建国大の李鉉出(イヒョンチュル)助教授は「日本側が韓国世論をさらに刺激すれば、文政権も強い対抗策を取るしか選択肢がなくなる。両政府とも自制すべきだ」と述べた。

PR

PR

注目のテーマ