不登校(6)背景を問う 「教育」の在り方 熊本大教育学部准教授の苫野一徳さんに聞く

西日本新聞 くらし面

「今の教育システムは限界を迎えている」と語る苫野一徳さん 拡大

「今の教育システムは限界を迎えている」と語る苫野一徳さん

 増え続ける子どもの不登校。その背景には何があり、歯止めをかける方法はないのだろうか。公教育の本質を問い続け、学校の問題と向き合う熊本大教育学部准教授の苫野一徳さん(39)に聞いた。

画一的授業が迎えた限界

 -学校教育の現状をどう捉えているか。

 「同じことを同じペース、同じやり方で取り組むシステムが限界を迎えている。150年前に開発されたときは大発明だったが、同質性を求めるこの慣習的システムで『落ちこぼれ』や『吹きこぼれ』が生まれ、なじめない子は苦しむ。不登校、いじめなどあらゆる問題の根本にある」

 -ここ数年で不登校が増えている理由は。

 「学校に行くのが当たり前じゃないという価値観が広がったのが一つ。もう一つは学校がルールを細かくし、縛りを強くしたことへの反動。一挙手一投足まで無意識に支配されると、耐えられない子が増えるのは当然。かつては厳しい先生がいて反抗先が分かりやすかったが、今は何に反抗していいのか分からない」

 -細かいルールには学校側のトラブル回避の狙いも透ける。

 「教育という営みとは最も遠いと自覚するべきだ。子どもたちは本来たくさんの失敗や時にけんかなどを通して成長していくもの。学校は安心してたっぷり失敗できる場じゃないといけない。失敗もけがもけんかもだめ。どうやって経験から学ぶのか。先生が悪いわけではないが、失敗を許さない世論になっている」

哲学を学び、教育の本質考える

 -教育システムに疑問を抱いたきっかけは。

 「私も同調圧力の強い学級にはなじめなかった。小学生の頃、なぜこんな勉強をしなければならないのかずっと疑問を持っていて、テストの結果も悪かった。周りに比べられ、序列化され、劣等感を味わった」

 「高校時代は制服も校則もなかった。ただ、当時はあまりに自由すぎて楽な方に流れている感じが許せず、生徒会長になり『自由を生かして成長しろ』と改革案をぶち上げた。全校生徒からバッシングを浴び、批判的な先生も理解してくれる先生もいた。苦しかったが対話を繰り返すことで徐々に仲間が増えたし、自分も変わった。学びの本質はここにあると感じた」

 -教育学部に進んだ大学ではどうだったのか。

 「驚いたことにそもそも教育とは何か、教育とはどうあるべきか、という研究がほとんどなされていなかった。そんな中、哲学者の竹田青嗣氏の『人間的自由の条件』に感銘を受けた。竹田氏に師事し、哲学徒として教育の本質を考えるようになった」

 -その後、大学で教える立場になった。

 「学生たちの狭すぎる価値観に悩んだ。言われたことを言われた通りにするのが大事だと思っている若者が多く、危機感を抱いた。しかし多くの学生は、大学生活で大きく成長するのを実感している。私のゼミには、不登校の子や会社経営者なども参加し、学生たちと対等に議論している。多様な価値観をごちゃ混ぜにして、視野を広げる取り組みだ」

「必ず変える」意志持つ大人知って

 -教育者として経験を積みつつ、見えてきた教育の本質とは。

 「一人一人の自由と、その自由を互いに承認すること。人は自由への欲望を持っている。ではどうすれば達成できるのか。まずはお互いが対等に自由な存在同士だと認め合うこと。その上で調整し合う。それは公教育の在り方そのものだ」

 -現状のシステムはその本質からそれているのか。

 「決められたことを決められた通りに勉強することが自由になるための力を育んでいるとは思えない。ただ、教育力が上がった過去の成功モデルから抜けられず、疑問を抱きながらも、どうすればいいか分からずに続けるしかなくなっている」

 -教育を変えることはできないのか。

 「みんなで同じことを同じペースでやる必要のない在り方があるということを先生の多くが知らない。保護者もそうだ。問題意識を共有して、国内外のさまざまな事例を知り、対話する機会を設けることが大切。最近では定期テストや宿題、固定担任制などを廃止した東京の麹町中や、広島県、名古屋市などの自治体でも変化が表れてきており、流れはある」

 -学校が変われば不登校問題も解消に向かうのか。

 「画一的な一斉授業や過度に管理的な学校体制をやめることだけで解消するわけではない。学校は何のためにあるのかの対話を重ね続ければ、おのずとあるべき学校像が見えてくる。不登校の理由は複合的だが、同質性の高い集団にいる必要がなくなれば、人との比較も強いられず居やすい空間になる」

 -不登校の子どもたちに伝えたいことは。

 「選択肢のない不登校の子に、学校だけが世界じゃないよ、という月並みな言い方が効果のないことは分かっている。あえて言うなら、幸せな学校生活を送ってほしいと本気で思い、必ず変えるという意志を持っている大人がいることを知ってほしい」

とまの・いっとく 1980年生まれ、兵庫県出身。熊本大准教授。専攻は教育学・哲学。新聞への寄稿ほか、テレビ出演多数。2020年、長野県軽井沢町に開校予定の幼小中「混在」校の発起人の一人に名を連ねる。著書に「教育の力」「どのような教育が『よい』教育か」など。熊本市在住。2児の父。

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