新時代を託す 日田市長選(1)防災対策 空振りは命守る“素振り”

西日本新聞 大分・日田玖珠版

 自衛隊車両が体育館の前に止まり、高齢者が隊員の手を借りて降りてくる。日田市立光岡小の体育館は、避難の住民でいっぱいだ。私語もほとんどない。6月2日、時折、小雨が降る中で行われた市合同防災訓練には緊張感があった。

 訓練は2012、17年の豪雨で被害に遭った光岡地区住民と連携し市が主催。自衛隊や消防、警察も加わり大規模なものになった。12年の被災以降、意識して訓練に参加する佐藤寿屋子さん(83)は「避難への意識が薄れることがないように参加し続けたい」と話す。市防災・危機管理課は今後も、市内各地域と連携した訓練を続け、市民の防災意識の向上を目指すという。

 市は情報伝達手段の改善も進める。屋外の防災行政無線は天候によっては聞きづらくなることから、より確実に情報を伝え、早めの行動に移してもらうため、7億円以上をかけてポケベル電波を使った防災ラジオを各家庭に配布。20年7月からの運用を目指す。

 だが情報をいかに実際の行動につなげるかは深刻な課題だ。県のまとめでは、昨年の西日本豪雨で避難指示が出た市内1万5724世帯で、実際に避難したのは2%程度にとどまっている。

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 避難しても被害がないと「空振りだった」とネガティブにとらえ、行政が提供する気象や避難の情報が、避難行動に結びつかないケースは多い。しかし、西日本豪雨で3人が死亡した京都府綾部市では避難を20回繰り返し、21回目の避難で命が助かった人がいた。

 同市の池田静子さん(65)は山間部の実家で一人暮らしの母親(92)を、雨が強くなる前に市街地の自宅に避難させ、その2日後の大規模土砂崩れによる全壊から命を救った。

 過去に実家前が土砂崩れした経験があり、近年は毎年4~5回、台風や大雨のたびに避難を繰り返していた。時には母を温泉に連れて行き「避難を楽しませた」という。「いつ何が起こるか分からない。行政だけに頼らず、自分の周囲にどんな危険があるのかを知っておく必要がある。決して自分が安全な場所に住んでいると思わない方がいい」。池田さんの言葉は重い。

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 「“空振り”と考えるのではなく、本番で適時打を打つ、命を守るための“素振り”と考えて」。そう語るのは京都大防災研究所の矢守克也教授(防災心理学)。「99回逃げていないと、本当に避難すべき100回目に逃げるのは無理だ」

 矢守教授は、気象や避難の情報提供の仕方はこれまで何度も改められたが大きな効果は表れていない、と指摘。その上で、情報と避難行動が結びつく方法として、地域ごとに危険な場所を知り、実際に避難行動を起こすための基準となる「避難スイッチ」をあらかじめ決めておくことの必要性を説く。

 例えば、目に見える山や川の変化、雨量、河川水位などを元に地域で避難を開始する時機(スイッチ)を決め、スイッチが入れば避難する。だが住民だけでこれを決めるのは難しい。矢守教授は強調する。「大切なのは、市の職員と住民が一緒に考え、行政主導だが、行政任せではない防災活動ができる地域をつくっていくことだ」

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 任期満了に伴う日田市長選は14日告示、21日投開票される。繰り返される災害や急速に進む過疎化への対策などは待ったなし。選択の日を前に、市の現状と課題を追った。

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