#KuTooが挑む社会通念 新西ましほ

西日本新聞 オピニオン面

 学生時代、ホテルや結婚式場で配膳のアルバイトをしていた。パンプス履きで重い食器や残飯のバケツを運ばなければならず、ひどい靴擦れと足腰の痛みに悩まされる日々。好きな仕事だったが耐えられず、スニーカー着用の飲食店にバイト先を変えた。

 女性が職場でパンプスやヒールのある靴を履くよう強いられることに異議を唱える運動「#KuToo」。セクハラを告発する「#MeToo」になぞらえ、「靴」と「苦痛」を掛け合わせた言葉だ。

 女優でライターの石川優実さん(32)が呼び掛け、ネット上の署名活動が始まり、先月、性差別だとして強制を法で禁じるよう求める要望書が厚生労働省に提出された。

 運動を知った時、「声を上げてよかったんだ」とハッとした。個人的にはヒールのある靴は好きだ。だが、仕事をする上では働きやすさが一番。身体に苦痛を感じながら働かなければならない慣習なんておかしい。連日歩き回る就職活動でもマナーとしてパンプスが必須なのか。

 「#KuToo」には多くの共感が寄せられ、賛同署名は3万筆を超えた。一方で、ネット上で石川さんに対する理不尽なバッシングが起きた。「ヒールを履くなと言うのか」「男性もスーツや革靴を我慢している」「会社に直接言えばいい」。意図せぬ方向から非難が相次ぎ、彼女のバイト先を突き止めようとする動きまで出て、運動のきっかけとなった葬儀社での仕事を辞める事態に追い込まれた。

 石川さんは「履きたい人を否定しているわけじゃない。男性と同じように、ヒールのない靴を履く選択肢を女性にも与えてほしいだけ」と訴える。苦しんでいても声を上げられない個人に代わって、政府から企業に働き掛けてほしい-そんな思いで活動を続けてきたという。

 国会で、パンプスの義務付けはハラスメントに当たるかを問われた根本匠厚労相は「社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲を超えているかどうか」と繰り返し答弁した。では、業務上パンプスが「必要」な仕事がどれだけあるだろう。女性だけに足腰を痛める靴の着用を求めるのが「社会通念」だとしたら、厚労省は率先してその改革に取り組むべきではないか。

 来年就航する航空会社「ZIPAIR Tokyo(ジップエア トーキョー)」は客室乗務員の制服にスニーカーを採用する。就活で自分に合う靴を履くよう呼び掛ける企業も出てきた。「#KuToo」が時代錯誤の社会通念を変えていく力に、と期待している。 (東京報道部)

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