芸術を通して共生社会へ 活動の手引を刊行

西日本新聞

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中村美亜准教授

刊行したハンドブック

 ●ホームレスや障害者… マイノリティーとつなぐ

 社会的に排除され孤立しがちなマイノリティーの人たちとの芸術活動を通じ、違いを認め支え合う共生社会を実現しようと、九州大大学院芸術工学研究院と文化庁は「はじめての“社会包摂×文化芸術”ハンドブック」を刊行した。近年、マイノリティーを巻き込む芸術活動が相次ぐが、「どう取り組めばよいか分からない」との声があることなどから、同研究院の中村美亜准教授を中心に昨年1月から作成に着手。先行例の実践者ら23人に話を聞いて手引書にまとめた。

 ガイドブックではまず、「社会包摂につながる芸術活動」について、マイノリティーの人たちの自己肯定感を高めるとともに、マジョリティー(多数派)の意識を変える芸術活動と説明。実践に当たり重要なポイントとして、(1)両者が対話する機会をつくる(2)個性や特徴に合う表現を探り、計画変更をいとわない(3)展示や上演のやり方を工夫する-ことを挙げる。

 先行例として、障害者の美術・舞台芸術活動を支援するNPO法人「まる」(福岡市南区)や、ホームレスや日雇い労働者らに市民講座を開くNPO法人「ココルーム」(大阪市西成区)など九つの取り組みを紹介している。

 中村准教授は「芸術は専門家のものでなく、誰もが楽しみ、生きる糧にできる。身体や五感を使う交流は新たな気付きや理解を生んで、それぞれの社会的課題を知る機会にもなる。芸術を通じ、多様な人々が違いを認め合い共生する社会を目指したい」と話す。ハンドブックは68ページ。同大ソーシャルアートラボのサイトからダウンロードできる。

違う尺度で新しい価値を 「社会包摂と芸術」 中村美亜准教授に聞く

 ハンドブックを中心となってまとめた中村美亜・九州大大学院准教授に「社会包摂につながる芸術活動」に込める思いを聞いた。

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 1990年代頃から国内外で、移民や紛争地の住民、貧困者、障害がある人、LGBT(性的少数者)など、生きづらさを抱えるマイノリティーが芸術活動で元気になったり、マイノリティーとマジョリティーが共に芸術活動を楽しみ、新しいコミュニティーが生まれたりする事例が報告されている。

 障害のある人の芸術活動は活発だ。絵画では延々と描かれた同じ形の群れとか、独特の色彩とか、器用ではないが、なぜか心に響いてくる。私たちが普段は抑制しがちな表現がそこにある。社会的には分断される関係でも「あ、なんか、分かる」と共感できるところが見つかる。

 芸術活動は表現の権利とも関わる。大阪市のココルームが開く市民講座「釜ヶ崎芸術大学」は絵画、習字、演劇など多様なプログラムで、日雇い労働者やホームレスらを支援する。代表で詩人の上田假奈代さんらアーティストが、各人が表現したいことは何か、得意なことは何か、時間をかけて対話し見いだしていく。

 滋賀県の障害者支援施設「やまなみ工房」には、ひたすら毎日、インスタントラーメンを袋の上から押して、くぼみを付ける人がいた。それ以外のことには興味を示さない。ならばと、営々とくぼみを付けた袋を作品として大量に並べて展示した。その行為を毎日やっているんだ、と分かると何か心を打たれる。美術専門誌も取り上げた。

 芸術の良さは、社会の常識的な価値基準とは違う尺度を作品とともに打ち立てることができるところだ。例えば、福祉施設に時々暴れだす人がいたら、それをいい表現でプレゼンテーションできないか考える。暴れてもいい時間や空間をつくって、共同で作品を創り出していく。一般的な尺度からこぼれ落ちる人間の欲求や在り方をすくい取ることができるところに芸術の価値がある。

 岐阜県の可児市文化創造センター「ala(アーラ)」は外国人労働者と一緒に演劇をつくる活動をし、コミュニケーションや相互理解を深めた。言葉より身ぶりなど非言語表現の方が共通項を見いだしやすい。文化の違いの面白さを知り、異国で働く困難さを考える機会にもなる。

 多様で異なる人々がお互いの気持ちを共有できる場を数多くつくることがこれから必要になる。芸術活動はその大切な力になる。

 ▼なかむら・みあ 1968年、名古屋市生まれ。専門は芸術社会学。東京芸大卒。同大助教などを経て2014年から現職。九州大ソーシャルアートラボ副ラボ長。著書に「音楽をひらく-アート・ケア・文化のトリロジー」など。

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