参院選意識首相決断 ハンセン病家族訴訟控訴断念 小泉氏倣い演出?

西日本新聞 総合面

 安倍晋三首相はハンセン病元患者の家族の被害を認め、国に賠償を命じた熊本地裁判決について控訴断念を「トップダウン」で決断した。政府内で十分検討することも、閣僚が原告と面会することもなく判断を下した背景には、21日投開票の参院選をにらみ、控訴した場合に予想される世論の反発を避けたい思惑がある。与党内からも「選挙目当てと思われても仕方がない」との声が漏れている。

 「筆舌に尽くしがたい経験をした家族の苦労をこれ以上、長引かせるわけにはいかない」。首相は9日午前、官邸で記者団の取材に応じ、自らの判断を「異例」だと強調した。

 関係者によると、官邸では6月28日の判決直後から、控訴断念を視野に水面下で検討していた。首相は今月3日の日本記者クラブでの党首討論会で、社民党の吉川元・幹事長から「控訴を断念すべきだ」と迫られ、「われわれは本当に責任を感じなければならない。対応を真剣に検討したい」と語り、政治判断する考えを示した。

 政府関係者は「自民党が老後資金問題で守勢に回っており、局面を変える必要があった」と話す。

 ハンセン病元患者らによる訴訟で2001年5月、当時の小泉純一郎首相は隔離政策を違憲とした熊本地裁判決について控訴を断念した。厚生労働省などの反対を押し切った小泉氏が、閣議決定した首相談話などで強調したのが「異例の判断」だった。

 小泉氏の判断は「政治主導」と評価され、自民党は直後の参院選で大勝した。安倍首相は当時の官房副長官。政府高官は「安倍首相には副長官時代からハンセン病問題に思い入れがある」。今回の首相の演出手法も、小泉氏に倣ったものだという見方を示す。

 ただ当時は原告と面会した坂口力厚生労働相が控訴断念を主張し、小泉氏自身も原告と面会した上で最終判断した。今回は根本匠厚労相すら原告の面会要請に応じておらず、官邸内からも「選挙期間中でなければ控訴していたはずだ。完全に選挙対策の政治判断だ」との声が漏れる。

 今後は原告への救済だけでなく、原告以外の家族の掘り起こしや偏見、差別の払拭(ふっしょく)も大きな課題となる。

 厚労省の担当者は「控訴断念を今日聞いたばかりで(政府が)今後どう対応する方針なのかも分からない」と戸惑っている。

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