全国の「茅葺(かやぶ)き」をめぐりながら里山文化の多様性を知るガイドブック

西日本新聞

 茅葺きの民家が、日本の農山村・里山の原風景を形作る要素として欠くことができないのは誰もが認めるところだろう。そうした日本全国の茅葺きの里を訪ね歩き、茅葺きの家々を紹介するガイドブックが本書である。

 めぐり歩く茅葺きの里は北海道から九州・沖縄まで16箇所、もちろん白川郷や五箇山も含まれている。豊富な写真・図版では茅葺き住宅の外観だけではなく、屋根裏など内観も見せてくれるし、屋根葺き作業の様子や、材料となる植物の植生、刈り取りの情景を知ることもできる。だからページをめくっていくにつれて、本書がただの「ガイドブック」ではないことに気づく。茅葺き住宅の「図鑑」であり「百科事典」でもある。

 茅葺き屋根の材料はいうまでもなく植物だ。ススキ、カリヤス、オギ、ヨシなどが材料として使われるが、こうした植物は「茅場」で生育し刈り取られて屋根材として利用される。屋根が葺き替えられるときにはがされた古茅は、家畜の飼料や田畑の肥料として役立っている。茅場は屋根の材料となる植物を育てるとともに他の植物や昆虫、野鳥などの住み処(か)となって生物多様性を維持することに一役買っているし、人や家畜が排出する二酸化炭素の固定化にも貢献する。このように、自然の大きな循環の中に茅葺きが位置づけられることを、本書は教えてくれるのだ。

 また、茅葺きの維持には「人の力」が欠かせない。それは職業としての屋根葺き職人の力だけではないようだ。世界文化遺産に指定されている岐阜県・白川郷では、材料となる茅の供給から葺き替えの作業まで村人による相互扶助がある。各戸が毎年刈り取った茅を貸し借りすることで、葺き替えに必要な大量の茅を調達し、村人が総出で古茅を下ろすことから葺き替えまでを短時間で仕上げるのだという。茅葺きは人と人のつながりによって支えられている側面が大きいのである。

 もう1点、本書の特徴をつけ加えるなら、日本語の表記の隣に、決して「つけ足し」ではない英語の表記が添えられていることである。日本の里山や伝統的住宅に関心のある外国人にもおすすめしたい。茅葺き住宅といっても、その様相は地域によってずいぶん異なる。豊富に掲載されている写真を見比べることで、農山村や里山への興味や理解が深まっていくこと請け合いである。

 

出版社:農文協
書名:日本茅葺き紀行
著者名:日本茅葺き文化協会編
定価(税込):2,916円
税別価格:2,700円
リンク先:http://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_54019116/

西日本新聞 読書案内編集部

PR

PR

注目のテーマ