武士道は“日本人の心”じゃない!? お決まりのイメージを覆す新日本人論

西日本新聞

 米・ハーバード大学の教授10人が語る、それぞれの専門分野から見た日本および日本人像をインタビュー形式でまとめた一冊。ジャンルは文学、芸術、宗教などの人文学系から、政治学、経営学、遺伝学、分子細胞生物学まで幅広い。インターネットを中心に、主観的・感情的な日本賛美と日本卑下の言葉があふれるなか、手垢(てあか)にまみれた日本人像を覆し、客観的かつ論理的に新たな日本人像に迫る。

 たとえば、“日本人の心”ともいわれる武士道精神。現代でも日本人の企業や組織に対する忠誠心の根拠としてしばしば持ち出されるが、日本文学・文化を専門とする教授によると、そもそも武士と忠誠心は無関係であるという。事実、「平家物語」に登場する武士は主君を裏切ってばかりいる。忠誠心が重視されるようになったのは戦国時代。それも下克上を恐れた主君たちが、部下に強制したのが始まりだという。そして、近代化のために「国民が国のために忠実に働くことこそが美徳だ」という考えを広める必要に迫られた明治時代、新渡戸稲造が『武士道』としてまとめて一般化した。つまり、武士道とは日本人の伝統的な精神でも価値観でもなく、国家や企業に対する忠誠を正当化するために都合よく作り上げられ、利用されてきたものにすぎない、ともいえるわけだ。

 このように私たちの思い込みを鮮やかに打ち壊してくれる一方で、日本人自身ではなかなか気づかない日本人の特性も教えてくれる。美術史・建築史専門の教授は、日本人をデザイン感覚に優れていると評価し、その要因として、幼い頃から漢字を学び、均整や意匠の感覚を身につけていることを挙げる。また遺伝学の教授は、古代DNAの分析から、日本人のルーツを東アジア、さらにアフリカへとさかのぼることで、私たちの歴史観に新たな視座を与えてくれる。

 著者は冒頭で「日本人ほど『日本人論』が好きな国民はいない」と述べているが、それは同時に、他国の歴史や文化について無関心であることも意味する。とはいえ、このグローバル時代、身内でいくら盛り上がってみてもむなしいだけだろう。本書でも、著者の「ハーバードの学生にとって、日本について学ぶことの重要性は何でしょう?」といった質問に対し、教授たちは一様に「自国や自分についてよりよく理解するため」と答えている。日本人についてだけではなく、考え方や生き方についても示唆を与えてくれる一冊である。

 

出版社:中央公論新社
書名:ハーバードの日本人論
著者名:佐藤智恵
定価(税込):950円
税別価格:880円
リンク先:http://www.chuko.co.jp/laclef/2019/06/150658.html

西日本新聞 読書案内編集部

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