電動車いすサッカーに全霊 映画「蹴る」、12日から九州の4市で上映 恋愛、介護も赤裸々に

西日本新聞 もっと九州面

人工呼吸器を付けてプレーする東武範選手(C)映画「蹴る」製作委員会 拡大

人工呼吸器を付けてプレーする東武範選手(C)映画「蹴る」製作委員会

電動車いすサッカーの魅力を語る中村和彦監督

 障害者スポーツ「電動車いすサッカー」に命を懸けて戦う選手に密着した、ドキュメンタリー映画「蹴る」が12日から佐賀市など九州各地で上映される。監督は福岡県大牟田市出身の中村和彦さん(59)。撮影に6年半を費やすほどのめり込んだ競技や選手の魅力を聞いた。

 主人公は、女性で初めて同サッカーの日本代表となった永岡真理選手(28)=横浜市。監督は2011年、試合で彼女を撮り始めた。日本代表入りや世界での勝利を目指す選手の戦いを17年のワールドカップ(W杯)米国大会まで追い掛け、1時間58分の映像でまとめている。

 「永岡さんは気持ちが前面に出る選手でくぎ付けになった。映画製作費のあてはなかったが、彼女を撮るために撮影を始めた。一時期、代表から外れて落胆した際、サッカーW杯落選を経験した北沢豪さんとの会話のシーンは作品の見どころの一つ」

 永岡さんは脊髄性筋萎縮症という病気で、生まれてから1度も歩いたことがない。車いすに体を保つことができず、ベルトで体を縛り付けてプレーする。
 選手に多い病気は筋ジストロフィーや脳性まひ。映画のもう1人の主人公、鹿児島県のチーム「ナンチェスター ユナイテッド鹿児島」所属の東武範選手(31)=同県日置市=も筋ジストロフィーだ。

 「彼は人工呼吸器を付けたまま戦う。それほど重い障害のある人がプレーするにもかかわらず、車いす同士の接触もあるし、いかにスペースを作って攻めるかというチームの戦術もある。激しくて面白いスポーツ。東さんは、車いすの操作技術と戦術眼がどちらも日本のトップ級の選手」

 映画では主人公を含む、選手同士や選手と健常者のカップル・夫婦の恋愛や別れも描く。自宅での介護の様子も撮影。ヘルパーが同席するため、2人だけで過ごす時間が少ないといった特種な事情にも触れている。中村監督は障害について勉強するため製作費の捻出も兼ねて、撮影中に介護の資格を取ってアルバイトに深夜励んだという。

 「選手と同じ病の人の体に触れ『これほど体が動かないのか』と理解が深まった。食生活や恋愛など、日常を描かないと選手のことは伝わらないと思えた」

 映画には東選手のチームメートで、代表の主将を務めた塩入新也選手(34)=鹿児島県霧島市=も登場。終盤のW杯の試合は3台のカメラを使い、公式の大会映像を上回る迫力に仕上がった。選手は肺活量が少ないため声が小さい点をカバーしようと、特別に許可をもらって試合中の音声をマイクで拾う工夫もした。
 医者が機内に帯同して体調管理をサポートする様子も撮影。選手が海外渡航する過酷さも伝えている。筋ジストロフィーの選手は、病気の進行により年に2、3人が亡くなるといい、映画には若手選手の葬儀や、東選手が限界を口にしつつ満身創痍(そうい)の体でプレーするシーンもある。

 「東さんは『サッカーをやるために生きている』と語るが、その通りだと実感する。彼らにとってサッカーは人生の中心、生きる支えになっている。映画を通じて情熱を感じてほしい」

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 ▼シアター・シエマ(佐賀市) 12日~18日午後1時と同5時。14日午後3時半から中村監督のトークショー(予約が必要)。シアター・シエマ=0952(27)5116。

 ▼大牟田文化会館(福岡県大牟田市) 13日午後0時半と同4時半。いずれも中村監督があいさつ。中村監督の短編作品「MARCH」も同時上映される。北原さん=080(3314)0315。

 ▼イムズ地下1階Garraway F(福岡市) 15日午後2時。中村監督がトークショー。谷脇さん=090(9489)7304。

 ▼ガーデンズシネマ(鹿児島市) 27日午後2時半。東選手、塩入選手があいさつ。ガーデンズシネマ=099(222)8746。

 ▼天文館ビジョンホール(鹿児島市) 8月3日午後1時40分と同5時40分、4日午後1時40分。全ての上映時間で、中村監督と東選手、塩入選手があいさつ。塩入選手=080(1770)2403。

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 【ワードBOX】電動車いすサッカー
 ジョイスティック形のコントローラーを手やあごなどで操作し、電動車いすの足元に付けたバンパーで通常より大きい直径32・5センチのボールを操る。車いすを回転させれば速いキックも可能。試合は男女混合でプレーヤーはゴールキーパーを含め1チーム4人。時間は20分ハーフ。車いすの最高速度は時速10キロ以下に制限されている。国内で39チームがあり、九州は鹿児島と北九州市、佐賀市の計3チーム。日本の選手人口は約270人で、W杯の日本代表枠は8人。

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