不法残留27年、夫の両親介護 「帰ってはいけないと…」 きょう判決 

西日本新聞 社会面

 27年にわたり不法残留していたとして今年4月、入管難民法違反容疑でシンガポール国籍の女が熊本県警に逮捕された。国内を転々とした後、同県で10年以上暮らし、地域住民からは「マユミちゃん」と呼ばれていた。ベテラン捜査員も「聞いたこともない」という長期のオーバーステイ。公判では「帰ってはいけないと思っていた」と語った。彼女を引き留めていたのは何だったのか。

 本名は、ウォン・メイ・クイン被告(61)。同県湯前町で内縁の夫(70)と清掃業で生計を立てていた。4月11日夜、夫が運転する車で仕事から帰る途中、過積載を疑われ、パトカーに止められたことから不法残留が発覚。逮捕、起訴され、6月に公判が始まった。

 起訴状によると、1992年3月、成田空港から入国し、90日の在留期限後も出国せずに2019年4月12日まで不法滞在したとされる。本国での離婚後に来日した被告は働きながら千葉、栃木各県に移り住み、05年ごろ長野県で夫と出会った。07年ごろ、帰郷する夫と共に湯前町に来た。

 田畑の広がる田舎町は高齢化が進み、人口は4千人足らず。自宅のある小さな集落を訪ねると、住民はみな顔見知りで「人当たりが良くて、働き者やったよ」と口をそろえた。「マユミちゃん」と親しまれた被告は小柄で色黒、流ちょうな日本語を話した。清掃や解体作業を請け負い、近所の70代女性は「草むしりを頼むと、造園業者より上手やった」。仕事は丁寧で、町外からも依頼が来ていた。

 夫婦はいつも一緒で仲が良く、被告が家計をやりくりした。古びた自宅では猫を数匹飼い、かわいがっていた。夫の両親を介護し、献身的に家族を支えてもいた。7年前に父親をみとり、母親が老人ホームに入ると見舞いに通った。母親の車いすを押す姿を見かけた人も多く、近隣男性(76)は「よう親の面倒をみとったよ」。夫は「妻」が正規に滞在できるよう議員や司法書士に相談したが「どうにもならんかった。籍も入れられんやった」という。

 オーバーステイに気付いていた住民もいた。それでも「悪いことはせんし、もうここの人間」。通報する人はいなかった。

 懸命に働き、九州の片隅で小さな家庭を築いたウォン被告。公判では「(本国に)帰ろうと思ったことはある。でも両親の介護もあり、帰ってはいけないと思った」と話し、うつむいて涙を流した。証人として出廷した夫は、強制退去が免れない妻を前に「また日本に来られたら、今度こそ籍を入れて、一緒になりたい」と声を震わせた。

 検察側は懲役2年6月を求刑。入管難民法では、1年以上の懲役または禁錮刑の有罪判決を受けた者は原則、再入国ができなくなる。弁護人は「被告は長期間にわたり善良な社会人で、日本に家庭もある」として寛大な判決を求めた。

 判決は12日に言い渡される。

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