資格は一つ 寄り添いは幅広く 介護、看護、保育… フィンランドの福祉政策 「ラヒホイタヤ」 テーリカンガス里佳さんに聞く

西日本新聞 くらし面

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テーリカンガス里佳さん

 北欧フィンランドには「ラヒホイタヤ」という独自の国家資格がある。「そばでケアする人」という意味で、介護や看護、保育など保健医療福祉の分野にまたがる基礎資格だ。一人で複数分野の仕事をこなせるため人材の柔軟な活用ができるのが利点で、日本でも注目されている。現地でラヒホイタヤとして働くテーリカンガス里佳さん(47)が一時帰国した際、話を聞いた。 

 ラヒホイタヤは1993年、少子高齢化で人材不足が懸念される福祉人材の確保とサービスの質の向上を目的に誕生した。准看護師や保育助手、歯科助手、ホームヘルパーなど10領域の資格を統合したもの。日本と同様、各分野に専門性の高い資格はあり、そうした専門家を現場で広く支える役割を果たしている。

 里佳さんは98年の結婚を機にフィンランドへ移住。デザインの仕事をしていたが、失業中に専門学校に2年間通い、4年前にラヒホイタヤになった。「求人が多く、年齢や国籍によって待遇が違うこともない。学費は無料で、社会人から学び直して資格を取る人も多い」と説明する。

 現在は訪問看護・介護が専門で、1日に10~15件の高齢者宅を回る。1回の訪問は20分程度。おむつ交換、シャワー介助、食事の提供のほか、服薬管理や血圧チェック、インスリン投与の注射などを担当。訪問先や介護内容、利用者の体調などのデータはスマートフォンを通じて共有され、医師や看護師にも送られる。「自分の好きなペースで働くことができるし、裁量もあってやりがいがある」

 「高福祉・高負担」の国として知られるフィンランド。介護を行うのは自治体の義務で、日本のように親の介護を理由に離職する人はほぼいないという。高齢者ケアは「施設」から「在宅」へと移行が進み、本人の自己決定を重んじ、可能な限り自立して暮らしていける仕組みが整う。買い物は契約スーパーによる宅配、食事は自治体が配達するなどしているそうだ。

 ラヒホイタヤの専門学校は、1年目に保育や看護と介護、リハビリなど幅広い分野について学び、2年目は各専門分野に進む。資格取得後は、業種間をスムーズに転職できることが利点だ。里佳さんの元同僚も、職場に籍を残したまま試験的に保育園で働いた後、保育の現場に移ったという。

 「仕事が合わないな、と思ったら他の業種に気軽に挑戦できる」と里佳さん。転職の際、新たな専門分野の講座を追加で受けるのが一般的で、働きながら通う人も多いという。「相手が子どもでも高齢者でも障害者でも、ケアをするという本質は同じ。人材をうまく生かせる仕組みだと思う」と話す。

 ●人材確保に有効 導入にはハードル

 ラヒホイタヤに詳しい政策研究大学院大の小野太一教授(社会保障論)に聞いた。

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 ラヒホイタヤは、地域に住み続けたい人が、自分の職種の人材が足りている場合や、将来的に中山間地などで子どもと高齢者が一緒に過ごせるケア拠点が増えていったときに、働く選択肢が増える。少子化によって保育分野の人材は過剰になることが予想され、ケアに携わってきた人に福祉分野で活躍し続けてもらう仕組みとしても有効だ。

 フィンランドにおいて、制度は地方自治体が少子高齢化と労働力の減少を見据え、政府に提案してできた。制度設計時には、当初反対していた看護の業界団体も議論に巻き込み、十分に意見を取り入れた上で合意形成に至った。

 ただ、フィンランドと日本では社会構造がまったく違うため、導入のハードルは高い。フィンランドでは、保健医療福祉のサービスの提供主体が自治体で、教育機関を運営しているのも自治体だ。日本の場合は、サービスの提供主体は民間、教育機関は民間と公的なものがあり、関連団体も多岐にわたる。議論の場を設け、合意形成に至るのはかなり難しい。

 実際、厚生労働省が2015年に保育や介護の資格統合を検討したが、導入は見送られた。ただ、福祉人材の確保策として職種間の移動がしやすくなる仕組み作りは進められており、昨年からは介護福祉士などが保育士資格を取る場合に試験科目が一部免除されるようになった。医療系や福祉系の専門職を育てるプロセスで共通の基礎過程を設ける方針についても検討が続いている。

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