<28>格好いいたばこ 今は昔

西日本新聞 くらし面

 昔の映画やドラマでは、たばこは大事な小道具のひとつ。ハードボイルドな「探偵物語」の松田優作さんは今でも私の憧れです。けれどもたばこを吸うのをまねようとは思わなかったのです。なので年齢だけはもう十分すぎるくらいの大人ですが、〈♪折れた煙草(たばこ)の吸いがらで/あなたの嘘がわかるのよ〉と言われても、その深い意味を理解できないやぼ天です。

 たばこは口腔(こうくう)内、食道、肺などのがんや脳卒中、虚血性心疾患、呼吸機能低下、糖尿病など多くの病気の原因になることが知られています。煙に含まれる一酸化炭素やニコチンなどの有害物質は、喫煙者だけではなく、たばこから立ち上る煙(副流煙)と喫煙者が吐き出す煙(呼出煙)を吸い込んでしまう受動喫煙で、非喫煙者にも悪影響を及ぼします。喫煙者が吸い込む煙より、副流煙の方が有害物質の濃度が高いのです。

 吸い込まれた発がん物質を含む有害物質は、体内に吸収された後、腎臓から尿と一緒に体の外へ出ていきます。そのため尿の通り道にも悪影響を与え、腎臓がん、尿管がん、膀胱(ぼうこう)がんのリスクが高くなります。喫煙者がいる家庭の子どもの尿中発がん物質を測定すると、喫煙者がいない家庭の子どもと比べ、たとえベランダで吸っても2倍、換気扇下で吸っても10倍多くなっていました。服や壁に有害物質が付着するので、屋外で吸っても受動喫煙は防止できません。喫煙30分後に吐き出す息にも有害物質が含まれています。

 さらに男性の喫煙は、血管を収縮させて勃起障害(ED)、精子数の減少や運動性の低下を引き起こして不妊の原因にもなります。女性の喫煙や受動喫煙も、卵子の老化を早めて不妊の原因になり、妊娠中に流産、早産を引き起こす恐れも。だから泌尿器科医は大きな声で禁煙を勧めています。

 沢たまきさんの〈♪ベッドで煙草を吸わないで〉。もしかしたら、こんなことを伝えたかったのかも。「EDにならないで」「早く子どもがほしいの」「たばこは赤ちゃんに悪いから」…。女心をたばこに込めて。やっぱり大人の歌だなあ。 

 (泌尿器科医・池田稔)

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