【参院選あなたの声から】政治家の発言見極める

西日本新聞 一面

参院選の街頭演説を聞く人たち。今は政治家の発言も瞬時にSNSを通じて拡散する時代だ=福岡市 拡大

参院選の街頭演説を聞く人たち。今は政治家の発言も瞬時にSNSを通じて拡散する時代だ=福岡市

2018年2月の沖縄県名護市長選で大量に出回った出所不明のビラ。事実とは異なる「日本ハムのキャンプ撤退」をイメージさせて当時の市政を批判している

 「政治家の街頭演説やテレビでの発言をどこまで信用していいのでしょうか」。福岡県朝倉市出身で横浜市在住の女性(25)から、そんな声が特命取材班に寄せられた。政治家にとって「言葉は命」。最近は、うのみにせず真偽を確かめようという動きがある。「ファクトチェック」だ。

 参院選も中盤を迎えた11日夕、福岡市の繁華街。多くの市民が耳を傾ける中、自民党総裁、安倍晋三首相が街頭演説に立った。

 「6年連続で今世紀に入って最も高い水準の賃上げが行われた結果、とうとうこの4月に年金の給付額を増やすことができました」

 特命取材班は、この発言についてファクトチェックしてみた。

 厚生労働省によると、2019年度の標準的な厚生年金受給世帯の受給額は22万1504円。18年度より227円増えている。首相の発言は正しいが、話はそれほど単純ではない。

 実は、第2次安倍内閣が発足した12年度は23万940円と、19年度より約1万円も多かった。その後、下落傾向となり、本年度まで22万円台が続く。増額は久しぶりのことだった。

 首相が「悪夢」と批判する民主党政権が発足した09年度は、23万2591円とさらに多く、以後3年間も23万円台だった。計算式が異なるため単純に比較できないが、受給額は民主党政権時代を下回っている。厚労省年金課の担当者は「経済状況が悪かったということ。ルールに基づき、物価や賃金に応じて改定した結果です」と話した。

 「強い経済をつくっていけば、年金の財政基盤を確かなものにできる。年金額も増やしていける」。首相はそう語るが、戦後最長の好景気の下、「強い経済」と「年金額の増加」は直結していないことが分かる。

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 都合の良い事実を強調し、悪いことは隠す‐。与野党を問わず、政治家の美辞麗句は珍しくない。その真偽を確かめる動きが出てきたのは、会員制交流サイト(SNS)などを通じ、誤解を招く発言が一気に拡散し、投票行動に影響しかねないためだ。

 昨年2月の沖縄県名護市長選。応援演説に立った国会議員は「今の市長の下で8年間、結果が出ていない。野球場もほったらかして日本ハムが米国に逃げる」と訴えた。停滞する市政のせいで、長年名護市でキャンプを行ってきたプロ野球、北海道日本ハムファイターズが撤退するという。

 発言はツイッターで拡散し、「日ハムロス」という言葉も生まれた。「日ハムに見限られた? 後手に回る市政!」「38年間続いていた日本ハムキャンプが米国アリゾナへ移動。市民経済に打撃」というビラが街頭や家庭にばらまかれた。

 実際はどうだったか。特命取材班に対し、球団は「撤退したということはない」と否定した。球場施設改修のために一時的に離れただけであり、来年春からはキャンプの全日程を名護市で行う計画という。一連の発言やビラは正確性を欠いていたことになる。

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 「選挙の時は誤った情報が広まりやすい。批判合戦になり、誹謗(ひぼう)中傷も起きる。そのまま放置すると有権者が誤った判断をすることになる」。NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)の楊井人文事務局長は強調する。

 FIJは17年にジャーナリストや大学教授らで設立。契機は16年の米大統領選で「ローマ法王がトランプ氏を支持している」といったフェイクニュースがSNSで拡散したことだった。

 こうした取り組みについて、専修大の山田健太教授(言論法)は「ネット上のフェイクニュース拡散を抑止する契機となっている」と評価。「有権者一人一人もSNSでの発信に責任を持ち、日常のやりとりが大きな力を持つ時代であることを社会全体で共有する必要がある」と話した。

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