官僚が忖度ゆがむ政策 官邸に萎縮苦言封印

西日本新聞 総合面

 安倍政権の発足から6年半がたち、霞が関の官僚が政権の意向を忖度(そんたく)する動きが強まっている。苦言を呈すれば左遷され、従順なら厚遇される‐。人事権を一手に握る首相官邸の思惑を先取りし、口をつぐんだり功を焦ったりする官僚たち。安倍政権の「政治主導」は政権基盤強化の一方で、政策のゆがみも生み出しつつある。

 「本当はもっと強く反対すべきだったのだが…」。厚生労働省のある官僚は悔恨の念を口にする。

 厚労省の毎月勤労統計で、昨年1月以降の賃金伸び率が異常に上振れした問題。上振れの主因となった作成手法の変更は、首相秘書官や麻生太郎副総理兼財務相の「問題提起」を受ける形で実行された。

 厚労省は、上振れを事前に認識していたにもかかわらず、十分な説明をしないまま異常値を公表。メディアや世論の誤信を招いた。賃金の実勢が見えない状況は今も続き、専門家からは「統計が破壊された」と批判を浴びている。

 作成手法の変更は省内に異論もあったというが、厚労省や総務省統計委員会が官邸に疑義を呈した形跡はない。ある厚労官僚は「官邸から『問題提起』があれば、みんな震え上がる。反対なんてできっこない」と自嘲気味に語る。

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 政権への忖度が疑われるのは「統計破壊」にとどまらない。厚労省の裁量労働制を巡る不適切データ提供、海外派遣された陸上自衛隊の日報に関するずさんな文書管理、財務省の森友学園問題の決裁文書改ざん、加計(かけ)学園の獣医学部新設問題‐。いずれも安倍政権下で起きた不祥事だ。

 指摘されるのは、安倍政権が2014年に内閣人事局を発足させ、首相官邸が中央省庁の幹部人事を一手に握った影響。国土交通省のある幹部は「今の人事はとにかく官邸の力が強い」と明かし、菅義偉官房長官の意向に反すれば「飛ばされるか辞めさせられる可能性がある」と畏怖する。

 加計学園問題では「総理のご意向」と書かれた文書を認めた前川喜平元文部科学事務次官に対し、菅氏が辞職の経緯を巡り「地位に恋々としがみついていた」と激しく批判。一方、国会の追及に「記憶にない」を連発した柳瀬唯夫元首相秘書官は経済産業省を退官後、複数の民間企業の役員に就任し、霞が関で「官邸に忠誠を尽くした論功行賞」とも受け止められた。

 強大な人事権を振るい、官僚組織を掌握する安倍政権。「官邸に逆らわなければ、仕事がスムーズに進む」(国交省幹部)と好意的な受け止めもあるが、政策の検討過程で「官邸のご意向」という言葉が免罪符のように使われることが珍しくなくなったという。

 政治の過度な介入で、官僚が萎縮し矜恃(きょうじ)まで失ってはいないか‐。強まり続ける忖度の空気に、政官の力関係のゆがみが透ける。

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