かつて瀬戸内海を支配した村上水軍…

西日本新聞 オピニオン面

 かつて瀬戸内海を支配した村上水軍。毛利家に味方し、織田信長の水軍を破った海戦で知られる

▼和田竜さんの小説「村上海賊の娘」で人気に火が付いたが、実像を伝える資料はあまり多くはない。「実は、古文書や武具などを焼いたことがあるのです」と写真家の村上宏治さんが話してくれた

▼村上水軍は因島(広島県尾道市)、能島(愛媛県今治市)、来島(同)をそれぞれ本拠とする3家からなる。村上さんは因島村上の子孫だ。「村上水軍が英雄視されるようになったのはNHK大河ドラマ『毛利元就』(1997年)に登場してから。それまでは海賊は悪者と思われ、子孫と名乗りづらかった」

▼村上さんによると、昭和40年ごろ、因島の一族が話し合い、水軍関連の資料を処分し、記録は残っていないことにしたという。海賊の印象が悪いだけでなく、もう一つ切実な理由があった

▼戦時中、広島は軍需産業で栄えた。海運業が盛んだった因島から多くの人が働きに行き、原爆に巻き込まれた。因島に残っていた人たちも、家族の捜索や救援活動のため船で駆け付けて被爆した。それ故、爆心から離れた因島に被爆者が多いのだという

▼海賊と被爆者の二つがそろえば、結婚や就職が難しくなる-。思い悩んだ村上さんの親たちは「生きるため」に被爆の事実を隠し、海賊の歴史を消そうとした。今は地域が誇る文化遺産の水軍に、そんな秘話もある。

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