国難 目を背けた「凡戦」 東京支社報道部長 植田祐一

西日本新聞 その他

 「世紀の凡戦」と言ったら言葉が過ぎるだろうか。参院選の勝敗のことではない。与野党の論戦の空疎さ、熱量の乏しさのことだ。直面する内外の危機にどう立ち向かうのか。深刻な低投票率は、そこに響く言葉を持たない政治全体に向けられた、有権者の深い失望の表れのように思える。

 何より安倍晋三首相に気概が感じられなかった。2017年衆院選で北朝鮮情勢を理由に「国難突破」を叫んだのには首をかしげたが、今回はそんな課題の設定すらしなかった。

 憲法改正の訴えも、野党の及び腰を攻撃することに主眼があり、東京・秋葉原の最後の演説ではほとんど触れなかった。ひたすら訴えた「政治の安定」の先に何をやるのか。新たな課題に挑む熱が伝わらず、「1強」への安住を印象づけた。

 野党も難しい課題から逃げた。とりわけ立憲民主党や国民民主党は政権担当能力を問われているのに、消費税増税に反対しながら新たな財源が必要な家計重視の政策を訴える「矛盾」を放置した。

 それには理由がある。野党間の主導権争いだ。立民はこの参院選を、次期衆院選で与党への挑戦者を決める「準決勝」と位置付けた。まず自分たちが政権批判の「受け皿競争」に勝つことを優先し、面倒な財源論に深入りしなかった。

 政治の機能不全は深刻だ。老後資金2千万円問題で、国民は将来受け取る年金だけでは生活がままならないことを覚悟した。ところが与野党ともにポピュリズムに走り、手厚い社会保障をアピールした。誰も本当に知りたいことを語らなかった。

 封印された「不都合な真実」はまだある。6年半のアベノミクスの後始末だ。今や国債や株式は日銀が買い支え「官製市場」が景気を支える。足抜けしようとしたら市場がどう反応するか。政治だけでなく、経済の専門家さえも「怖くて誰も触れない問題」になっている。

 安全保障も岐路に立つ。トランプ米大統領が日米安保を揺さぶる中、ホルムズ海峡への自衛隊派遣に踏み絵を迫られる可能性がある。どう対応するのか、選挙戦でまともな議論もないまま、ボルトン米大統領補佐官と河野太郎外相らの会談がきょう22日、日本で行われる。

 安倍長期政権は締めくくりが見え始めた。首相は今こそ「国難」に挑むべきだ。巨大な政治基盤はそのために与えられたのである。野党はいつでも政権交代の選択肢になれるように、積み残しの難題を解決する道筋を探ってほしい。与党への「逆張り」だけで政権が転がり込むほど民意は甘くない。

 総じて「凡戦」だった今回、初めて候補者として街頭に立った性的少数者(LGBT)当事者や障害者の訴えは胸に響くものがあった。有権者は政党や候補者の本気度を見抜く目を持っている。これからの政治が何を語り、何を語らないのか、国民はじっと見ている。政治が試されていることを、与野党ともに忘れてはならない。

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