偏見解消 進まぬ啓発 ハンセン病訴訟 首相謝罪 施策の効果限定的

西日本新聞 総合面

 安倍晋三首相と24日に面会したハンセン病家族訴訟の原告団が「総力」を挙げるよう求めたのは、差別解消への取り組みだ。これまでの国や自治体の施策の効果は限定的で、今でも差別を恐れて家族が声を上げにくい状況も啓発活動の壁となっている。識者は「訴訟で語られた原告の声を受け止め、社会が共有することが啓発の第一歩になる」と訴える。

 ≪家族に対する偏見や差別には根強いものがあります≫

 厚生労働省が中学生向けに配布するパンフレット「ハンセン病の向こう側」。ハンセン病の歴史や、かつての強制隔離政策が助長した激しい差別の実態を8ページにわたって紹介する中、家族の被害に言及するのは、この1文だけだ。

 元患者が起こした国家賠償訴訟の判決が確定した2001年以降、国はパンフレット作成やシンポジウム開催を通し、啓発を目指してきた。多くは病気への理解を促し、元患者が強いられた苦難を紹介する内容。家族の被害に焦点が当たることはほとんどなかった。

 国の施策について家族訴訟の熊本地裁判決は「家族への偏見差別の除去を徹底するには足りず、十分とは言えない」と指摘。厚労省の担当者も「元患者本人の名誉回復と、病気自体の理解を深めてもらうことが第一だった」と対策の遅れを認め、「家族の話を聞いて啓発の在り方を検討したい」と話した。

 地方自治体の啓発も十分とは言えない。福岡県や福岡市は、ハンセン病をテーマとした講演会や国立療養所の訪問事業を行ってきたが、家族の被害を重点的に扱ったことはないという。国立療養所「菊池恵楓園」がある熊本県合志市ですら同様で、市の担当者は「元患者の被害に比べ、家族の置かれた状況は見えにくかった」と話す。

   ◇    ◇

 ハンセン病問題の啓発に大きな役割を果たしてきたのが、国立療養所の入所者らが担う「語り部」だ。差別の被害を実体験に基づいて赤裸々に語ることで、多くの聴講者の心を動かしてきた。

 一方、家族が集う「れんげ草の会」会長で家族訴訟の原告の一人、赤塚興一さん(81)は「表に出られる家族は、まだ少ない」と話す。家族訴訟では原告561人の大半がさらなる差別につながることを恐れ、実名を公表しなかった。

 「そうした状況だからこそ、家族訴訟の意義をきちんと評価すべきだ」。ハンセン病市民学会の訓覇浩(くるべこう)事務局長(56)は指摘する。法廷では多くの原告が名前を伏せながらも、進学や就職、結婚などで受けた生々しい差別を明らかにした。「法廷で語られ、裁判所が重く受け止めた家族の声がある。行政や教育関係者はこの声に耳を傾け、市民にも伝えてほしい。家族に直接話を聞けなくても、原告の声を共有することが啓発の礎になる」と語った。

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