深い穴に落ちて気を失った男が目覚めると、そこは河童(かっぱ)の国だった…

西日本新聞 オピニオン面

 深い穴に落ちて気を失った男が目覚めると、そこは河童(かっぱ)の国だった。町に車が走り、家の中にはピアノまで。河童たちの暮らしは、人間界と大差ないように見えた

▼だが、人の常識とはかけ離れたことも。例えば出産。父親は母親のおなかの中の子に「この世界に生まれてきたいか」と尋ね、「生まれたい」と答えた子だけが生を得る-。芥川龍之介の「河童」だ。きのうは35歳で早世した作家の忌日。晩年の小説にちなみ「河童忌」と呼ばれる

▼いじめや虐待がはびこる今の世の現実を知れば、人間の赤ちゃんも「生まれたくない」と言うかもしれない。だが、人間界では、宿った命を産み育てるのは親の責任である

▼だからこそ考え込んでしまう。母親の血液から胎児の染色体異常を調べる「新出生前診断」。学会の指針に基づき、施設などを限定して行われてきた。胎児の様子を知りたい、という親心はよく分かる。それ故か、無認可の病院などで検査を受けるケースが増えているという

▼出生前診断について十分な情報やカウンセリングがないまま中絶を決断するのは危うい。「命の選別」につながりかねない重い判断だからこそ、正しい知識を普及させたい。これまで学会の自主規制に任せていた厚生労働省も、診断の在り方の検討に乗り出した

▼もちろん妊婦の自己決定権を尊重する。できれば赤ちゃんに「生まれてきたい?」と問い掛けてもほしい。

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