アニメ会社放火 命と「宝」奪った罪の深さ

西日本新聞 オピニオン面

 アニメ制作会社「京都アニメーション」のスタジオが放火され、スタッフ34人が命を奪われた事件から1週間が過ぎた。重軽傷を負った人も34人に上る。多くが20~30代の若者という。

 あまりに理不尽な惨事に、国内だけでなく、国外の日本アニメファンからも追悼の声が高まり、支援の輪が広がっている。

 放火と殺人の容疑で逮捕状が出た男の経歴や、その男とみられる人物の事件前の行動も明らかになってきた。現場では包丁数本とハンマーも見つかっている。うかがえるのは周到な計画性と強い殺意である。

 事件を防ぐことはできなかったのか。かけがえのない人命が一方的に、質の高い作品を生み出す才能とともに失われた。類似事件の再発を防ぐためにも、動機や背景など全容の解明が不可欠だ。

 京都アニメーションは1985年に設立された。緻密な取材などに基づく奥深い描写法が特徴だ。誰もが経験する人生の困難を乗り越えるストーリー性が、若い世代を中心に共感を呼んできた。代表作「けいおん!」は、軽音楽部を存続させようとする女子高校生らの物語だ。

 先進的な日本アニメ文化の中でも京都アニメの作品を「宝」と称賛する海外の関係者は多い。専門学校に通うなどしてアニメーターになった人たちの情熱の結晶である。米国の配給会社が呼び掛けた支援の募金は1日足らずで1億円を超えた。

 事件はいくつかの不運も重なって、大惨事となった。男は玄関から侵入し、1階にいきなりガソリンをまいて放火したとみられる。炎と煙は、近くにあった吹き抜け式らせん階段を3階まで一気に駆け上がった。

 らせん階段は各階スタッフの意思疎通をスムーズにしていた。同様に各フロア内に仕切り壁が少なかったことも結果として災いした。施設や設備は消防法令には適合していた。

 ガソリンは近くのスタンドで購入し、携行缶に入れて現場に運んだとみられる。購入時の身元確認は義務付けられていない。今後、対策は必要ないのか。

 男は、身柄を確保された際、「パクりやがって」「小説を盗んだから放火した」などと話したという。京都アニメとの接点は確認できていない。以前に働いていたことはなく、小説を書いていたのかどうかも不明だ。

 過去の大量殺人事件の犯人に共通するのは、社会的な孤立、望み通りに生きられない長期の不満、その原因を他人に求める傾向などと分析する専門家もいる。今回の事件をはじめ一つ一つを丁寧に掘り下げ、社会に潜む凶悪な犯罪の芽を摘み取る手だてを探らなければならない。

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