【DCの街角から】心優しき南部の人々

西日本新聞 夕刊

 「教会に行かなければ悪魔に捕らえられるぞ!」。先月、人工妊娠中絶問題の取材で訪れた南部アラバマ州の高速道路沿いに、こう書かれた看板があった。

 教会に通う習慣のない私にとっては何とも刺激的な表現で驚いたのだが、宿泊先の民泊の主人は「珍しい表現ではない」と教えてくれた。アラバマには聖書に忠実なキリスト教右派の福音派が多いからだという。

 トランプ大統領の就任から2年半。政権運営はゴタゴタ続きだが、支持率は40%台を維持している。その底堅い人気を支える大きな存在が人口の4分の1を占め、米最大の宗教勢力といわれる福音派。中絶への最も強硬な反対派だ。

 なぜ中絶に反対するのか直接聞きたくて、福音派の教会の取材を試みた。だが、現地で出会った数人から「やめた方がいいのではないか」と助言を受けた。アラバマのような地方では“よそ者”への警戒心が強い上、保守強硬派とも称される福音派には過激な人もいて、トラブルになりかねないと心配してくれたのだ。実際、取材を断られた教会もあった。

 それでも郊外の教会に何とか掛け合って、礼拝を終えた人たちに質問をすることができた。すると多くが誠実な態度で答えてくれた。中には「いい人を知っている」とわざわざ知人を紹介してくれたり、中絶禁止運動の中心人物に連絡を取ってくれたりする人もいた。ある家族連れは「家でランチをごちそうするよ」と誘ってくれもした。

 それは、国論を二分する中絶問題について自らの主張の正しさを理解してほしいが故の優しさだったのかもしれない。とはいえ「強硬」「過激」などと表現するのがはばかられるほど穏やかな、ごく普通の人たちだった。懸念は杞憂(きゆう)に終わった。

    ☆    ☆

 彼らの多くは来年の大統領選でトランプ氏が再選することを熱望していた。中絶規制強化の姿勢はもちろん、景気を良くしたからだという。アラバマにトヨタ自動車とマツダが工場を新設することを「トランプ氏の手柄」と評価した黒人女性のフェイスさん(42)は「政権運営がうまくいくよう毎日、トランプ氏のために祈りをささげている」と満足げに話した。

 ただ、モラルを重んじる人たちだけに、大統領としての品位を欠くトランプ氏の言動に不満を抱く人も少なくない。「ツイッターの発信は本当にやめてほしい」。3児の母ペニーさん(43)は不快感を隠さなかった。

 それでもペニーさんは「民主党候補には期待できないから、トランプ氏に必ず投票する」と言い切る。トランプ氏が経済運営で大きくつまずかない限り、心優しき南部の人々が大量に離反することはない‐。そんな思いを強くした。 (田中伸幸)

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