相模原事件3年 被害者に匿名強いる社会

西日本新聞 オピニオン面

 相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、元職員によって19人の入所者が殺害され、職員も含めて26人が重軽傷を負った事件から、この夏で3年が過ぎた。

 凄惨(せいさん)極まりない事件に遭遇した入所者や職員の心には今も、深い傷が刻まれているはずだ。かけがえのない家族を失った遺族から、苦しみや悲しみが消えることはないだろう。

 時は慌ただしく過ぎていく。だが、事件の記憶を風化させるわけにはいかない。

 殺人罪などで起訴された男は重度の知的障害者を、家族や社会に負担をかけるという「不幸を作る」ことしかできない存在とみなし、自らの凶行について、その不幸を減らす手段だと正当化した。常軌を逸した、ゆがんだ考えと言うほかない。

 介護を仕事に選んだ若者がなぜ、こんな異常な考えを持つに至ったのか。惨劇を防ぐことはできなかったのか。来年1月に始まる予定の裁判で、可能な限り事件の全容が詳(つまび)らかになることを願いたい。

 警察は遺族感情に配慮して、亡くなった19人の実名を公表しなかった。「この国は優生思想的な風潮が根強く、(実名を)公表できない」と遺族に言わしめる私たちの社会はいったい、どんな姿をしているのか。

 意思疎通が難しい障害者は人間でない、殺した方がよい-という男の主張に賛同する人はほとんどいないだろう。だが、障害者はいない方がよいという考えに同調する声は、インターネット空間に飛び交っている。

 国は障害者基本法で「差別は許されない」という理念を掲げるが、現実にはさまざまな場面で差別や排除が横行している。障害者の生活や社会参画を支える仕組みや制度の整備も道半ばだ。人間の価値を「生産性」で測る風潮もなくならない。

 NHKが開設したウェブサイト「19のいのち」で、犠牲者の人柄に触れることができる。

 26歳の女性はキラキラした瞳で多くの人に安らぎを与えてくれ、いろんな人に愛されていた。スピッツのヒット曲「チェリー」が大好きだった。

 55歳の男性は怒られた時はしゅんとして、ほめられるとすごい笑顔になる喜怒哀楽が豊かな人だった…。

 19人全員が私たちと同じく個性を持ち、家族や介護者とともに人生の物語を紡いできた人々である。

 神奈川県で先日、追悼式が行われた。今年も遺影はなく、実名も公表されなかった。この匿名の重さと悲しさを受け止め、障害の有無にかかわらず、誰もが支え合って暮らす共生社会へと歩を進める必要がある。

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