経済財政白書 「政府広報」ではあるまい

西日本新聞 オピニオン面

 2019年度の年次経済財政報告(経済財政白書)が公表された。前身は経済白書で、日本経済が直面する課題を分析して幅広い政策課題について論じてきた歴史がある。政府が出す各種白書の草分け的な存在だ。

 茂木敏充経済再生担当相が寄せた巻頭言には、令和の時代にも「その役割を追い求め、分析力を一層磨き、日本経済の現状と課題を的確に示す羅針盤でありたい」と書いてある。

 「失われた10年」を経て長く低迷しているとはいえ、日本は米国、中国に次ぐ世界3位の経済大国だ。IT、人工知能(AI)といった技術革新で社会が猛スピードで変化する時代だからこそ、羅針盤の役割はますます重要になっている。

 今回の白書は、米中貿易摩擦など海外経済の動向や10月に控えた消費税増税の及ぼす影響、人手不足対策として新卒の通年採用の意義、外国人や高齢者の雇用拡大などを取り上げた。

 政府が成長戦略などで打ち出した政策を裏付ける内容が目立ち、新味に乏しい。消費税増税の影響を巡っては、幼児教育の無償化や社会保障の充実などのほか、キャッシュレス決済に伴うポイント還元やプレミアム商品券などの対策で「万全の対応をとっている」と説明する。これでは政府広報パンフレットと変わらず、羅針盤の役目を果たしているとは言えまい。

 一方、異次元金融緩和の長期化による副作用や、財政再建の先送りで膨らむ財政赤字についての記述は乏しい。

 羅針盤が役に立つ前提は、現在地を正確に把握できていることだ。それを誤ると、あらぬ方向に進んでいくことになる。白書で言えば、日本経済の現在地、景気の現状を正確に把握することが基本だ。

 それなのにその表現がすっきりしない。政府の公式見解である月例経済報告に従えば、景気の拡大局面は今年1月に戦後最長の73カ月に並び、既に記録を更新しているはずだ。ところが白書には「緩やかな回復が続いている」とあるだけで、「戦後最長」の文言は見当たらない。

 17年度は「バブル期を超え、戦後3番目の長さ」と、18年度には「戦後最長に迫っている」と記述していたのだから、いかにも不自然だ。世界経済の先行きに不透明感が強まる中、景気回復が続いているという判断を下したことへの自信のなさの表れとしか思えない。

 「もはや『戦後』ではない」(1956年度)など、過去の白書には時代の転換点を読み取り、問題提起するような骨太のフレーズがあった。こうした原点に立ち返り、日本経済の針路を的確に示す白書とすべきだ。

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