なぜ?優先席ない九州の高速バス 設置義務なく対応にばらつき

西日本新聞 社会面

優先席の試験的導入を始める西鉄高速バス=29日午後、福岡市・天神 拡大

優先席の試験的導入を始める西鉄高速バス=29日午後、福岡市・天神

高速バスに優先席設置を願う女性。歩行にはつえと装具が欠かせない

 「九州の高速バスには、なぜ優先席がないんでしょうか」。身体障害者の60代女性=北九州市=から、特命取材班にこんな疑問が届いた。以前暮らした関東や関西では、高速バスや空港へのアクセスバスには必ず優先席があったという。九州の現状を調べた。

 女性は数年前、くも膜下出血で倒れ、左半身にまひが残った。リハビリのため半年間暮らした関東では、左右に2席ずつある高速バスを利用していたが、最前列に優先席があり、困ることはなかった。だが九州に戻り、高速バスに乗ると優先席はなかった。「それまでは健常者で意識しておらず、初めて気付きました」

 この女性の場合、理想的な席は「最前列の左側」。歩行には、つえと足首を固定する装具が欠かせず、細い通路を歩くのは難しい上、左半身まひなので腰掛けると左に体が倒れがちだからだ。「右側に座ると左の乗客に寄り掛かるような体勢になってしまうんです」。事前にバス会社に電話で伝え、席を取っているが「毎回頼むのも申し訳ないし、自分は障害者なんだ、と再認識する瞬間でもあります」と表情を曇らせる。

▽全員着席が前提

 関東、関西で高速バスや空港行きバスを運行する主要各社に尋ねると、運転席後ろ2席や最前列の4席などを優先席にしていた。一方、九州では「高速バスで優先席を設置している社は今のところない」(九州運輸局)という。

 国土交通省によると、街中を走る「都市内路線バス」は優先席設置が一般的だが、あくまで「義務ではなく企業努力」。標準的な整備内容として「乗降口近くに3席以上を原則として前向きに設置する」とガイドラインで示している。

 一方、路線が約50キロ以上で複数の市町村をまたいで走るバスなどを指す高速バスは、優先席には触れていない。「路線バスは立つ客もいるので優先席やつり革を設けているが、高速道路を走るバスは安全性の観点から立ったままの運行はしない」(同省)。つまり全員が座ることを前提とするバスだからという。

 設置は各社の考えに委ねられており、対応にばらつきが生じている。

▽来月試験導入へ

 九州運輸局は2017年12月、他地域の導入例を踏まえ、多くの高速バスを運行する西日本鉄道(福岡市)に優先席設置の検討を要請した。同社は「前方は子連れなど一般客の利用頻度も高く、優先席以外が満席の場合も座りづらくなる可能性がある」など設置に伴う影響を考慮した上で、8月1日からの試験導入を決定。小倉‐福岡空港線(平日1日計49便)で2列目の2席に設置する。同社は「利用状況や乗客の声を踏まえ、本格導入するかどうか検討する」としている。

 高速バスなどを運行する他社は「全席指定で販売しており、席の希望があった場合、可能であれば対応している」(JR九州)、「路線バスに比べて入り口に段差があり、乗車が困難な方は介護タクシーや自家用車の利用が多い」(佐賀市交通局)として優先席設置の予定はない。

 優先席の設置を求める声は、さまざまな障害者から上がっている。手足の筋肉が衰え、全身に広がる進行性の難病「遠位型ミオパチー」の患者会、NPO法人PADM(東京)代表の織田友理子さん(39)は簡易電動車いすを使用。以前、長崎空港発のバスに夫洋一さん(39)に抱えられて乗った際、優先席がなくて困った経験がある。洋一さんは「障害者差別解消法では障害者への合理的配慮を求めている。優先席はその典型。企業側の大きな負担になるとも考えにくい」と話した。

 声を寄せた60代女性は年金暮らしで頼れる家族もいない。日常の足はバスだ。「障害者ができることを増やす支援が広がってほしい」と願う。

PR

PR

注目のテーマ