移住者と変えていく町 山本 敦文

西日本新聞 オピニオン面

 長崎県東彼杵町の人口は7900人弱。離島を除けば県内では最も小さな町である。今、町内に変化の波が静かに広がっている。

 その象徴が4月の町議選で初当選した林田二三(ふみ)さん(37)だろう。何しろ町ではこれまで、女性議員は皆無どころか、女性の立候補さえ初めてだったのだから。

 2年前、夫が長年の夢だった輸入車専門の自動車整備工場を東彼杵町で開いたのを機に、故郷の諫早市から家族で移住した。大村湾を望む町が気に入り、ここで暮らす決意を固めると、町の子育て支援の在り方などが気になった。近づく町議選では、女性の立候補予定者は見当たらず、無投票の観測も流れた。

 「じゃあ、私がやってみるか」。立候補を決意したのは告示の1カ月前。そんな林田さんの選挙を応援したのが、LINE(ライン)などインターネットの交流サイトを通じてつながる、同じ世代の移住者のネットワークだった。

 町は、2011年の東日本大震災と福島第1原発事故で被災した避難者を受け入れたのをきっかけに、移住者支援を本格化させた。町外からの移住者は今年6月末までに109世帯293人に上る。

 林田さんの応援団は、やがて町内の子育て世代や女性に拡大。当選後の議場デビューには多くの支援者が傍聴席に詰めかけ、議会の雰囲気をがらりと変えてしまった。

 「町の未来は、ここで生まれて育った人だけでなく、ここを好きになった人も担っていいはず」と林田さん。

 なぜ、こんな変化の波が広がったのだろう。私は、町への移住を促進する取り組みに、ある特徴があったからだと考えている。人口減少を逆手に取った遊休不動産のリノベーション(大規模改修)だ。

 今年4月に開校したユニークな教育方針の私立校「きのくに子どもの村学園」は、廃校になった町立小の校舎を活用した。町外から多くの児童が入学して移住者の増加にもつながった。他に、一般社団法人「東彼杵ひとこともの公社」が移住者と地元民とを仲介し、空き店舗や古民家を改修したカフェやレストランのオープンも相次ぐ。

 行政と民間が一体で推進する「リノベ移住」は、古くからの住民にとって、まちづくりを考える具体的な刺激剤になったのかもしれない。

 自治体の人口減対策として見れば、課題に歯止めがかかったわけではない。転出が転入を上回る社会減も続く。ただ、この試みの醍醐味(だいごみ)は「生まれ育った人」と「好きになった人」の共鳴にこそあるとも思うのだ。 (諫早支局長)

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