【余生をどこで】(6)規制なじまぬ民間 指導に限界

西日本新聞 くらし面

 老人ホームが経営破綻に陥れば、入居者は突然、退居を迫られかねない。民間のサービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームが増える中、厚生労働省は「入居者の居住の安定を確保する」観点から年々、自治体側に「厳正な指導」を強めるよう求めているが…。「権限に限界があり、正直歯がゆい思いです」。福岡市保健福祉局事業者指導課の担当者はこぼす。

▼「強制力」は乏しく

 特別養護老人ホーム(特養)や、有料老人ホームの中でも施設に介護などの職員が常駐する「介護付き」は介護保険法に基づき、市が整備計画を立てて公募し、事業者を選ぶ。設備や職員の人員配置など、守るべき義務的なルールである「基準」を満たしているか、確認した上で指定する。

 こうした「計画段階からコントロールできる施設」(同課)と異なり、住宅型の有料老人ホームは基本、老人福祉法に基づく「届け出」だけで設置、運営が可能。国や自治体は物件のチェックポイントとして、規模や設備、職員の配置などの「指導指針」を定めているものの、指針はいわば推奨ルールであり、そもそも基準より強制力は乏しい。

 また住宅型では入居者が介護保険のサービスを利用する場合、あくまで各介護事業所と個別に契約する。実際は運営事業者の多くが同一法人で介護事業所を運営しており、もともと他業種からの民間参入も少なくない。老人ホームの事業破綻を未然に防ぐため、事業者側の経営をトータルで指導、監督するとなると「保健福祉行政の枠を超える部分があり、難しい」(同課)のが実情という。

▼所管団体にお願い

 今年4月末に閉鎖となった福岡市博多区の住宅型有料老人ホームのケースで、市側はどう対応したのか。

 同課は3月上旬、施設の関係者から「資金繰りが危ないという話が出回り、辞めたいという職員が複数いる」と相談を受けた。

 過去5年間、市内で廃止された有料老人ホームは16施設。「いずれも事業者側が半ば計画的に閉めた例がほとんどで、入居者が突然、転居を迫られるような今回のケースは初めてだった」という。

 入居者は約30人。行政側は民間住宅などに仲介することはできない。同課は、運営会社に何度か事情を聴き、今後の方針を確認。一方で、特養や介護事業所を運営する市内の社会福祉法人などで構成する「福岡市老人福祉施設協議会」に「万が一のときには短期入所などで受け入れてもらえないか」と相談していた。「受け皿をどう確保するのか、権限がない中でできることを考え、あくまで市が所管する団体にお願いする形だった」(同課)

 結局、施設側は4月末での閉鎖を事前に入居者に伝達。入居者側はそれぞれ受け皿を探したとみられ、市は全員の転居先を施設側に確認したという。

 ただ、要介護の高齢者の需要は2040年ごろまで伸びると見込まれ、今後も新規参入は続く見通し。

 市は今後、有料老人ホームへの立ち入り調査の回数を増やしていく方針だが、介護業界の人手不足もあり、有料老人ホームの質の「玉石混交状態」(同課)は当面、続くとみられる。

▼事前に倒産対策を

 有料老人ホームが倒産する可能性を考慮し、入居者が一時金を前払いする場合、返金対象額(上限500万円)の保全を全ての有料老人ホームに義務付けるよう法改正するなど、国も入居者保護の取り組みを続ける。その保全措置の一つとして、事前に公益社団法人・全国有料老人ホーム協会と契約するなど手続きすれば、返金分を同協会が保証する制度もあり、国は事業所側に、こうした制度の活用も促している。

 同協会は内閣府が所管。ホームページ=https://user.yurokyo.org/=には、同協会に登録する有料老人ホームの情報や、各施設のサービス内容や職員態勢が詳しく記載された「重要事項説明書」の見方についても公開している。

 民間施設に公的な監視が行き届きにくい現状では、入居者自身で事前に施設側の情報を集め「選択する目」を養う努力も欠かせない。 

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【ワードBOX】有料老人ホームに対する指導指針

  民間事業者には一律の規制がなじまない面がある一方、高齢者が長年生活する場であり、介護などのサービス水準の確保も必要なことから、厚生労働省が施設側に適切な指導を行うためのルールとして策定、随時改正している。これを参考に都道府県や政令市も、地域の実情に応じた指針を作成。個室や施設の広さ、職員の配置、サービス内容、防災設備、適切な事業計画の作成、前払い金の保全などのほか入居者に十分、情報提供することなどを求めている。

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