ペット救い 人癒やす 獣医師の末松さん 「気管手術の技術広めたい」

西日本新聞 大分・日田玖珠版

 呼吸ができず気管チューブを入れてなんとか延命しているチワワが、末松どうぶつ病院(日田市)に運ばれてきた。気管が扁平(へんぺい)につぶれて気道が狭くなり呼吸困難になる病気「気管虚脱」だ。だが獣医師、末松正弘さん(40)の手術を受けると見違えるほど回復。5日後には退院し今も元気に過ごしている。「ペットを救うことは、飼い主を癒やすこと。もっと救える命はあるはずだ」

 日田市出身。動物病院を営む父のそばで、幼い頃から犬や猫に囲まれて育った。治療の様子もよく見学。ペットが元気を取り戻すと飼い主も父も笑顔になった。「楽しそうな仕事だ」。中学、高校と進学するにつれて獣医師は明確な目標になる。日本獣医生命科学大学(東京)を卒業後、山形県の動物病院で働くなどして2007年、帰郷した。

 動物の呼吸器疾患を専門的に診られる病院や獣医師は多くはない。小型犬に多い気管虚脱の治療には、「ステント」と呼ばれる金属を気管の中に挿入して気道を広げる治療法や、リングを気管の外側に取り付ける手術が主流だが、気管壊死や神経まひなどの合併症のリスクもある。

 痛く苦しいとき、動物は体全体でそれを訴える。特に呼吸がしにくそうな姿は見ていてつらい。「苦しむ動物のために良い治療法はないか」。試行錯誤を重ねて約10年前、軽くて伸縮性のあるダブルリング状の医療器具を開発。これを用いた手術を始めた。

 手術はのどを切開して気管の外側から器具をはめ込み、つぶれた気管と器具とを糸で結びつけて気管を広げる。合併症も極めて少なく術後の服薬も必要なくなるが、血管や神経を傷つけずに手術をするのは至難の技だ。末松さんが11~17年に手術を施した重症の気管虚脱の犬は54匹。そのほとんどが今も元気に過ごしているという。救った犬が飼い主と楽しそうに散歩をしている動画を見ながら、かみしめるように言う。「これが最高にうれしいんですよ」

 この手術法と治療成績が今春、米国の権威ある獣医外科学雑誌に掲載されると、米国をはじめイタリア、チリ、韓国など各国の獣医師から問い合わせが相次いでいるという。昨年は全国の獣医師17人で小動物呼吸器疾患の研究グループを設立し、その会長にも就いた。「動物の病気を治す機会はつかもうと思えばつかめる。命を救う仕事をしている以上、それをしないのはもったいない」。その思いで今も、前向きに研さんを重ねる。

 人の医師とともに、犬の気管を再生する医療の研究にも参加。末松さんが開発した器具が役立てられる可能性もある。研究が進めば、将来は、のどの疾患が多い子どもの治療にも応用できるかもしれない。「動物を救う技術が人を治せるものになるなら、こんなにやりがいのあることはない」。医療の可能性は無限だと、感じている。

【メモ】末松どうぶつ病院の診察時間は、平日が午前9時~正午と午後1時半~同6時半。土曜日は、午前9時~正午と午後1時半~同4時。祝日は午前中のみの診察で、日曜は休み。日田市中城町3の52。0973(23)8090。

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