シンデレラの靴は 北里 晋

西日本新聞 オピニオン面

 先ごろ発表された今年上半期の芥川賞と直木賞の受賞者はいずれも女性で、直木賞は候補全員が女性だった。だから言うわけではないが、数ある文学賞の中で芥川賞と直木賞が特別なのは、その「シンデレラ効果」にあると思っている。

 純文学の新人を対象とする芥川賞は、特にそうだろう。お笑いタレントの又吉直樹さん(「火花」で2015年芥川賞)のような例外はあるものの、たいていは世間的に無名に近い作家が受賞を境に一躍「時の人」となる。作品の中身よりも、そのドラマの方がやじ馬的な興味をそそることも多い。

 取材して感心させられるのは、受賞に至る仕組みの巧みさだ。両賞とも事前に5~6点の候補作が発表される。メディアは時間をかけて作品を読み込み、取材を競い、出版社も便宜を惜しまない。

 本番の選考会が行われるのは趣ある高級料亭。待ち構える報道陣の前に駆け込んできたスタッフが、受賞作を記した紙を張り出す。続けて有名作家による選考経過の解説があり、やがて別会場で紅潮した顔の受賞者の記者会見が始まる-という流れは、まさしく「スター誕生」の現場に居合わせる気分。最近はネットメディアの実況中継まで入り会見自体がお祭り騒ぎだ。

 裏を返すと、このくらいの仕掛けがないと、いまどきは小説、特に純文学作品は売れづらい。芥川賞はもちろん、大衆文学対象の直木賞すら、受賞即「売れっ子」を意味しないのが昨今の実情だ。

 伝説的な芸能人、カルーセル麻紀さんをモデルにした「緋の河」を2月まで本紙に連載した桜木紫乃さん(「ホテルローヤル」で13年直木賞)は、受賞のメリットを「直木賞作家という看板そのもの」と話していた。「それがなければ多分、麻紀さんに(小説化を)受けてもらえなかったと思う」

 コンビニのアルバイト体験を濃厚に反映させた「コンビニ人間」で16年に芥川賞を受賞した村田沙耶香さんは、受賞後もバイトを続けたことが逆に話題になった。「コンビニ人間」はベストセラーとなって、世界中で翻訳されている。昨年、本人に尋ねたら、バイトはさすがに「いまはお休み中」とのことだったが。

 今年、芥川賞を射止めた今村夏子さんは「人と接しない仕事が好き」だそうで、受賞作「むらさきのスカートの女」の主人公同様、ホテルの客室清掃のバイト体験がある。

 どうやら最近のシンデレラたちは、もう舞踏会に「ガラスの靴」を履いて来ないようだ。 (文化部長)

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