江戸時代に土生玄碩(はぶげんせき)という眼科医がいた…

西日本新聞 オピニオン面

 江戸時代に土生玄碩(はぶげんせき)という眼科医がいた。金銭欲が少々強かったとも伝わるが、腕は確か。西洋医術を進んで学び、将軍家に仕えるほど評判は高かった

▼長崎から医師のシーボルトが江戸に入った際は、宿を訪ねて最新医療の教えを請うている。謝礼として、将軍から下賜された紋付きの羽織さえも差し出したという

▼後年、シーボルトが帰国する時、荷を積んだ船が難破した。中から国外持ち出し禁止の日本地図などが見つかり、関係者は厳罰を受ける。例の羽織も発見されて土生も連座した。国禁の大罪を犯しながら後に復権を許されたのも、卓越した技量の故だろう

▼当時来日した西洋人は、目を病む人の多さに驚いたそうだ。土ぼこりが昼夜舞い、衛生状態も悪かった。神社のたまり水で多くの人が洗眼して治癒を祈願したため、逆に感染が広がったともいわれている

▼現代は目に代わって耳の病気の広がりが心配されている。スマートフォンなどで長時間、大音量の音楽を聴き続けることで起きる聴覚障害だ。世界保健機関(WHO)は、世界の若者(12~35歳)の半数に相当する11億人に難聴の危険性が高い、と警告する

▼好きな音楽で1人だけの世界に浸る楽しさは分かる。けれど、「一度失った聴力は戻らない」との指摘は重い。もっと気掛かりなのは、そもそも当の若者はこの警鐘を知っているのか、ということ。耳目を集めるニュースなのに。

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